あついスープを口にしてヤケドしそうになった者は、それに懲りて冷たい膾まで吹いて食べるようになった。ということから、一度失敗した者はそれに懲りて、必要以上の警戒をすることを表わします。
「羮」は、肉に野菜を混ぜて作った吸い物。 羊の肉が古代御馳走でした。
「羮」の字は「羔」と「美」から出来ていまして、どちらにも羊が入っています。それほどに羊の肉は美味しかったようです。ちなみに「ヨウカン」も羊の肉に関係して出来た食品です。
「膾」は、野菜や肉などを細かく切って酢づけにした食品です。魚の肉を使った場合は「鱠」の字を使います。
「羮(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹く」は古代中国の戦国末期、楚の屈原(クツゲン:B.C.340~B.C.278)の詩に出てきます。
屈原は、おとろえかけた楚の国を盛り返そうと努力しましたが、反対派の讒言(ザンゲン)によって退けられ、汨羅(ベキラ)の淵に身を投げてしまいます。生前、夢占いを頼んだ巫女が屈原に忠告した内容が、
『楚辞(ソジ)』の「九章」中の「惜誦(セキショウ)」と題する詩の中にでています。
懲於羹而吹膾兮
羮に懲りて膾を吹く、
あつものに懲りてなますを吹く
何不變此志也
何ぞ此の志を変ぜらんや。
何故にその志を変えないのか。
これまで、あなたは身の安否を顧みず、君主に忠実に仕えたが、讒言によって危うい目に会った。熱い吸い物で口をやけどしたのに懲りて、冷たい膾も吹くと言う。それなのにあなたはどうして自分の志を変えようとしないのか。
『楚辞』は中国戦国時代末の楚の屈原(クツゲン)及びその門人や後人の、文学作品を集めたものです。『詩経』が北方文学の代表と言われるのに対して、『楚辞』は南方文学の代表とされています。
屈原(BC340?~BC278?)は楚の王族の一人で、おとろえかけている国勢を盛り返そうと努力しましたが、反対派の讒言(ザンゲン)によって退けられ、汨羅(ベキラ)の淵に身を投げてしまいました。
「惜誦」は屈原が、君主に対する忠誠心を懐きながら、退けられたことを述べ、それにも拘らず志操を変えず、態度を捨てないことを歌ったものです。