【采椽(サイテン)、斲(けず)らず】と訓読されまして、山から伐採してきた材木を削らないでそのまま建物
に使うということから、質素な建物、質素な生活のことを言います。
【采椽】は、采(クヌギ)の椽(たるき)を言います。
【斲:タク】は、部首が「斤」で、左側の部分が「タク」という音を表す形声文字です。意味は「切る」、「けずる」です。
【采椽不斲】は、『韓非子』五蠹(ゴト)篇に出ています。五蠹は五匹の蠹(キクイムシ)です。
堯の天下に王たるや、
堯が天下の王となったときは、
茅茨(ボウシ)翦(き)らず、采椽(サイテン)、斲(けず)らず、
屋根を葺いた茅の先も切りそろえず、采(クヌギ)の椽(たるき)も削りそろえず、
糲粢(レイシ)の食、藜藿(レイカク)の羹(あつもの)にして、
粗末な穀類を食べ、藜(あかざ)や、豆の葉の汁を飲み、
冬日は麑裘(ゲイキュウ)、夏日は葛衣(カツイ)、
冬は子鹿の皮衣、夏は葛(くず)の衣という質素なありさまで、
監門の服養と雖(いえど)も、此れより虧(か)けず。
門番の暮らしでさえ、これよりひどいことはないほどであった。
因みに『五蠹』は、次のような人達です。
当世の制度を批判し君主を惑わす学者
昔を褒めて今の国家の利益を忘れる者
剣を帯びて社会の秩序を乱す者
楽をして私腹を肥やす君主の側近者
贅沢品を作ったり農民を食いものにしたりする商工業者