始めは若い女性のように弱々しく見せて、相手を油断させ、最後になって兎のように素早い動きで相手を襲うことを表す四字熟語です。
【処女】は、家に処(い)る女性の意味で、未婚の女性をいいます。
【脱兎】は、驚いて逃げる兎の意味で、非常に素早い動きを表す言葉です。
【処女脱兎】の文字の並びから、か弱い女性が怖い目にあって、一目散に逃げ出すようなイメージを持たれる方がいらっしゃるかも知れませんが、むしろそれとは逆に、素早い動きで相手を襲うことを表します。世界的に評価の高い兵法書『孫子』の九地篇に出ています。
九地というのは、九種類の戦地の状態です。参考までに示して置きます。
1)散地(サンチ):自国の領内で戦う状態。
2)軽地(ケイチ):敵国に侵入したがまだ深入りしていない状態。
3)争地(ソウチ):自国、敵国、勝った方が有利になる状態
4)交地(コウチ):自国、敵国、自由に往来できる状態
5)衢地(クチ):諸国に接している状態
6)重地(ジュウチ):敵国に深く入り込んでいる
7)泛地(ハンチ):行軍に困難な状態
8)囲地(インチ):逃げ道なく、敵が小勢で、わが大軍を撃つ状態
9)死地(シチ):力の限り戦えば免(まぬが)れるが、そうでなければ全滅する状態
それぞれに応じた戦術の一つの説明として
是(こ)の故に始めは処女の如く、敵人(テキジン)戸(コ)を開くや、後は脱兎の如くにして、敵は拒(ふせ)ぐに及ばず。
はじめは処女のようにしおらしくしていて、いざ敵側が門戸を開いたとたん、
後は追手を逃れる兎のように、一目散に敵国の懐深く攻撃してしまえば、
もはや敵は防ぎきれるものではない。
『孫子』には、現代人にとって、決断を強いられた時に、参考になる情報が豊富に記載されています。また、われわれ現代人が抱えている諸問題についての効果的な戦略立案の参考にもなると思います。