ジュンサイの吸い物とスズキのなますという意味です。
いずれも美味しいふるさとの味と言う意味を込めていまして、故郷を懐かしく思う気持ちを表した四字熟語です。
【蓴】は、蓴菜;ジュンサイのことをいいます。
【羹】は、羔+美から作られた会意文字です。もとの字は、鬻+羊から作られ、羊を烹(に)る意味で
作られた字です。
【羹】は、篆刻文字の字形からできました。当初は、羹の左右に弜を加えて、煮て湯気の上がる
意味を示していました。 白川静著『字通』。
【鱸】は、日本ではスズキをいいますが、中国ではハゼよりやや大きい淡水魚をいいます。
ですから【蓴羹鱸膾】の【鱸】をスズキとしたのは正しくないのですが、日本で使う場合ということで
スズキとなりました。
【膾】は、月+會から作られた形声文字です。「なます」の意味です。月はお肉です。ですから
お肉ベースのなますとなります。これがお魚ベースのときは「鱠」の字が使われることもあります。
「膾」や「炙(あぶ)り肉」は、美味しいので人はよく口にします。
そこから【人口膾炙:ジンコウカイシャ】という言葉が生まれました。
【蓴羹鱸膾】の四字熟語は、『晋書』張翰(チョウカン)伝の故事によります。
斉王が執政の時、政情は非常に危険な状態にありました。
張翰、秋風の起こるを見るに因(よ)りて
張翰は秋風が吹く頃になると、
乃(すなは)ち、呉中の菰菜(コサイ)蓴羹鱸魚の膾を思ひて曰く
ふるさとの、まこもの芽やジュンサイの吸い物、魚のなますを思って言いました。
人生、志に適するを得るを貴ぶ。
人生は心の思うままに生きるを善しとすべし。
何ぞ能(よ)く数千里に羈宦(キカン)せられて
それが、何でまたこんな遠くまで
以て名爵を要(もと)めしや、と。
名を求めて遠方にいることがあろうか。
遂に駕を命じて帰る。
とうとう南方の故郷に帰ってしまいました。