些細なことや,つまらぬことで争うことの譬(たと)えです。
『荘子』「則陽(ソクヨウ:人名)篇」に出ている寓話です。
戦国時代(B.C.403~B.C.221)の諸侯の争いは、【蝸角之争】に譬えるべく、おろかしい行為と断じるのは、同時代の諷刺家荘周(荘子)です。
著書『荘子』の「則陽篇」にあるこの話は、歴史的事実に基づいた、荘周一流の寓話、それもなかなかの傑作です。
魏の恵王(ケイオウ:B.C.370~B.C.335)は斉の威王(イオウ:B.C.378~B.C.343)と盟約を結びましたが、のちに威王がこれに背いたので、恵王は怒って刺客を放ち、威王を暗殺しようとしました。
これを巡って、御家来の間で、ああでもない、こうでもないの意見が出てきました。
宰相の恵子(ケイシ)は頃合いを見計らって、賢者の戴晉人(タイシンジン)を恵王に引きあわせました。
「蝸牛(かたつむり)というものがございますが、ご存じでしょうか」
「知っておるとも。」
「その蝸牛の左の角には触氏という国が、右の角には蛮氏という国がありましてな。 お互いに領土を争って
戦争をはじめ、死者数万、敗軍を追うこと十五日にしてはじめて、引き返して来ました。ということで
ございます。」
「なんだ馬鹿馬鹿しい、戯言(たわごと)を」
「その国々の中に魏という国があり、魏の中に梁という都があり、梁の中に王がおられる。宇宙の無窮に
くらべれば、斉を伐つとか伐たないとか、思い迷われる王と、 蝸牛角上の触氏・蛮氏とにどれほどの相違が
ございましょうかな。」
王は苦笑して言った。
「なるほど、同じことかもしれぬわい。」