【兵に常勢(ジョウセイ)無し】と訓読されまして、
戦にはこうすれば絶対に勝てるという決まったやり方はない。
常に敵情の変化に応じて、やっていかなければならない。
『孫子』の兵法、虚無篇にある言葉です。
『虚』は、空虚の意味で、備えなくすきのある事です。
『実』は、充実で十分の準備を整えることです。
『実』によって『虚』を伐(う)つべきであることが述べられています。
夫兵形象水、
それ兵の形は水に象(かたど)る。
そもそも軍の形は水のようなものである。
水之形、避高而趨下
水の形は高きを避けて下(ひく)きに趨(おもむ)く。
水の流れは高いところを避けて低いところへと流れるが、
兵之形、避實而撃虚
兵の形は実を避けて虚を撃つ。
軍の形も、敵の備えをした「実」のところを避けて、
すきのある「虚」のところを攻撃するのである。
水因地而制流、
水は地に因(よ)りて流れを制し、
水は地形によって流れを定めるが、
兵因敵而制勝、
兵は敵に因りて勝ちを制す。
軍も敵情のままに従って勝利を決する。
故兵無常勢、水無常形、
ゆえに兵に常勢なく、水に常形なし。
軍には決まった勢いというものがなく、決まった形というものもない。
能因敵變化而取勝者、謂之神
よく敵に因りて変化して勝を取る者、これを神と謂う。
敵情のままに従って変化して勝利をかちとることのできるのが、神業というのである。
故五行無常勝、四時無常位、日有短長、月有死生、
ゆえに五行に常勝なく、四時に常位なく、日に短長あり、月に死生あり。
だから、陰陽五行において常に勝ち続けるものはないし、
四季はいつまでも留まることがない。
日の長さには長短があり、月には満ち欠けがあるのである。