『健康』という言葉は、諸説あるようですが緒方洪庵の訳著『病学通論』が初出とも言われています。
そうして『健康』には2種類あると記載されています。
1) 『十全健康 ジュウゼンケンコウ』:諸器官の機能に異常が全くない状態。
2) 『 タイカンケンコウ』:諸器官の機能にいくらか異常が、あるが、
格別の支障はなく、健康体として通っている状態。
この【十全健康】、【帯患健康】が、福澤諭吉の『文明論之概略』に出ています。
今日の文明は未だその半途にも至らず,豈(あに)遽(にわか)に清明純美の時を
望むべけんや。この無智無德の人は即(すなわち)是れ文明の世の疾病(シッペイ)なり。
今の世界に向(むかっ)て文明の極度を促(うなが)すは,これを譬(たと)えば世に
【十全健康】の人を求(もとむ)るが如し。
世界の蒼生(ソウセイ)多しと雖(いえ)ども,身に一点の所患(ショカン)なく,生れて
死に至るまで些少(サショウ)の病にも罹(かか)らざる者あるべきや。決してあるべからず。
病理を以て論ずれば,今世(コンセイ)の人は仮令(たと)い健康に似たるものあるも,
これを【帯患健康】と云わざるを得ず。國も亦猶この人の如し。仮令(たと)い文明と
称すと雖ども,必ず許多(あまた)の欠点なかるべからざるなり。