【羮(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹く」と、訓読されます。
一度失敗したのに懲りて、必要以上の用心をすること、を意味します。
二度あることは三度あり。膾を吹かないまでも用心に越したことはありません。
でも、『冷麵』は吹いて頂いたんでしょうか。
出典は『楚辞』の「九章」中の「惜誦:セキショウ」と題する詩です。
戦国時代の中期、楚の国の屈原は、おとろえかけた国威を盛り返そうと努力しましたが、反対派の讒言(ザンゲン)によって退けられ、汨羅(ベキラ)の淵に身を投げてしまいます。死を賭してまでの屈原の思いの一端が下記の「惜誦」の一部です。
懲於羹者而吹膾兮 羹に懲りる者は膾を吹く
羹に懲りてなますを吹く者がいる、
何不變此志也 何ぞ此の志を變ぜざるや
なぜこの志を変えようとしないのか、
欲釋階而登天兮 階を釋(す)てて天に登らんと欲す
梯子を捨てて天に昇ろうとして、
猶有曩之態也 猶曩(さき)の態有りや
なお、以前の態度を捨てきれぬのだ。
余談ですが
お肉ベースのなますは【膾】です。月はお肉のことです。
お魚ベースのなますは【鱠】です。
それと【羹】は、羊の肉に野菜を混ぜて作った吸い物でした。
【羮】の字は、「羔」と「美」から出来ていまして、どちらにも羊が入っています。それほどに羊の肉は美味しかったようです。
ちなみに「羊羹:ヨウカン」も羊の肉に関係して出来た食品です。中国の料理で、羊の羹(あつもの)でした。羊の肉を煮たスープが、冷めると肉のゼラチンによって固まり、自然に煮凝りの状態となります。これが「ヨウカン」のもとのかたちです。
日本へは、鎌倉時代から室町時代に、禪宗のお坊さんによって伝えられましたが、禪宗では肉食が禁じられているため、精進料理として羊肉の代わりに小豆を用いたものが、日本における羊羹の原型になったようです。初期の羊羹は、小豆を小麦粉または葛粉と混ぜて作る蒸し羊羹でした。