【虎の為に翼を傅(つ)く】と訓読されまして、強いものにさらに力を付けることを言います。
【爲虎傅翼】の【傅】は、「亻」+「尃:音符号。フ」から作られた形声文字です。原義は「もり。もりやく」です。そこから、「つく」、「かしずく」の意味にも使われます。
「尃」を音符号としている字で常用漢字は、
博(ハク/ひろい)。薄(ハク/うすい)。縛(バク/しばる)。簿(ボ/帳面)。敷(フ/しく)。
ですが、「尃」の部分が変形されています。右肩の点を忘れないようにしてください。
常用漢字以外では
傅(フ/もり。かしづく)。溥(フ/あまねし)。榑(フ/くれ)。賻(フ/たすける。おくる)
搏(ハク/うつ)。膊(ハク/ほじし)です。音符号は正しく「尃」となっています。
【爲虎傅翼】は、『韓非子』難勢篇を出典としています。
そもそも権勢というものは、国を治めるのに役に立つが、国を乱すのにも便利なものである。
だから 『周書』 (周代の書物) にも、
毋為虎傅翼、
虎の為に翼を傅(つ)くるなかれ。
虎の為に翼を付けてやってはならぬ
將飛入邑、
将(まさ)に飛びて邑(ユウ:村) に入り、、
翼があると、村に飛んできて、
擇人而食之。
人を択(と)りてこれを食(く)らわんとす、と。
人をとらえて食おうとするだろう、と書いてある。
あの愚か者を権勢の上に乗せるというのは、つまりは虎の為に翼を付けてやることだ。
夏桀王・商紂王は、高い台や深い池を掘って人民の力をつかいはたし、炮烙(ホウラク)の
火あぶりを行って人民の命を痛めつけたが、夏桀王・商紂王が思うままの行動を
なしえたのは、天子の威力が 「翼」 の役目をはたしたためである。
夏桀王・商紂王も庶民であれば、一つの悪行も起こさないうちに処刑されたであろう。
権勢というものは、残忍な虎狼の心を養って無軌道なことを行なわせるものなのである。
これこそ天下の大害である。