途中で退かない決意を持ち続けることを言います。
【具】の意味は、『そなえる』です。字源は、廾(両手)+貝 から作られた会意文字で、
両手に貝などの供え物をささげ持って、「そなえる」意味をあらわします。ですから
正字体は、俱の人偏(亻)を取った字体になります。
【不退転】は、仏教用語で、修行によってたどり着いた位置から後戻りをしない、という意味です。
「不退転の決意」とか「不退転の覚悟」などの表現で固い志を持って退かないことを
言います
「フグタイテン」と紛らわしいのですが、こちらは「不俱戴天:俱(とも)に天を戴(いただ)かず」です。
意味も「同じ天の下には生かしておかないほど恨みや憎しみの深いこと」です。
夏目漱石『吾輩は猫である』九章に【具不退転】が出ています。
「伯父さん心の修業と云うものは玉を磨る代りに懐手ふところでをして坐り込んでるん
でしょう」
「それだから困る。決してそんな造作(ゾウサ)のないものではない。孟子は
求放心(キュウホウシン)と云われたくらいだ。邵康節(ショウコウセツ)は
心要放(シンヨウホウ)と説いた事もある。また仏家(ブッカ)では中峯和尚(チュウホウオショウ)
と云うのが【具不退転】と云う事を教えている。なかなか容易には分らん」
「とうてい分りっこありませんね。全体どうすればいいんです」
「御前は沢菴禅師(タクアンゼンジ)の不動智神妙録(ふどうちしんみょうろく)というものを
読んだ事があるかい」
「いいえ、聞いた事もありません」