見かけと中身が一致していないこと、また良品に見せかけて粗悪品を売ると言うたとえを表しています。羊の頭を看板に掛けながら、実際は犬の肉を売っているという意味からきた四字熟語です。
南宋の無門慧開(ムモンエカイ)という僧が、古来の課題四十八則を選び、評釈した書である『無門関:ムモンカン』の第六則にでています。
昔、お釈迦さまが、大勢の人に説法をしていた時、一本の花を摘まんで示したところ、ひとり
迦葉(カショウ)だけが微笑んで理解しました。お釈迦さまは迦葉をほめたたえました。
【拈華微笑】という四字熟語にもなっている逸話ですが、この逸話に対する釈迦の態度を無門慧開が批判した言葉の中に【羊頭狗肉】が出てきます。どう批判しているかと言いますと、これが結構キビシイ。
迦葉のみをほめたたえるのは、善良な大衆を無視して見下し、立派そうな教義を掲げて、実はたいした
説法もしていないと言うことだ。まるで【羊の肉だ、などと偽って狗(犬)の肉を売り付けなさる】
ようなものだ。とても並の人間に出来る芸とは言えない。
遡って、春秋時代「斉の名宰相」と言われた「晏嬰:アンエイ」の言行録『晏子春秋』に、【羊頭狗肉】と同じような趣旨で、面白い話が出ています。こちらは、【牛首を懸けて、馬肉を売る】となっています。
霊公の世(B.C.581~B.C.554)。ある時から、町の女性が男装をすることが流行りだしました。
霊公は禁止令を出しました。しかし、一向におさまりません。事の起こりは、霊公の趣味からでした。
妃に男装をさせていたのです。
そこで晏嬰は「霊公のやっている事は【牛首を懸けて、馬肉を売る】ようなものです。速やかに
宮廷で禁止すれば、流行はすぐに終わります。」と諫言し、その通りにすると流行は収まったそうです。
前漢末期に劉向(りゅうきょう)の『説苑(ぜいえん)』政理篇にも同じものがあります。違うのは、霊公の孫の景公の話になっているところです。言い回しも微妙に違います。
宮中で婦人の男装を許しながら、宮外には禁令を出しているのは、
【牛の首を門にかけて、店の中では馬肉を求め買わせる肉屋と変わりません】
宮中でも、このようなことを、禁止すべきです。
『原子力規制委員会設置法』が成立しました。
表向きは、国民の安全を守ることを使命として成立したのですが、実際の法律条文は「霞が関文学」作品で、抜け道だらけの法律とか。現代版【羊頭狗肉】は相当、巧妙になっているようです。
ダメな条文は、早く修正しないといけないと思うのですが。