【洒:サイ】は、水を撒くことです、
【掃:ソウ】は、箒で掃くことです。
【洒掃:サイソウ】は、水を撒いて箒で掃いて掃除をすることです。
【薪:シン】は、たきぎを取ることです、
【水:スイ】は、水仕事をすることです。
【薪水:シンス】は、たきぎを拾い水を汲んで炊事をすることです。
【洒掃薪水】は、家事労働のことを表した四字熟語です。
『吾輩は猫である』の第2章の後半に、【洒掃薪水】が使われています。
ああ困った事になった。細君が年に一度の願だから是非叶(かな)えてやりたい。平生(いつも)
叱りつけたり、口を聞かなかったり、身上(シンショウ)の苦労をさせたり、小供の世話をさせたり
するばかりで何一つ【洒掃薪水】の労に酬(むく)いた事はない。
今日は幸い時間もある、嚢中(ノウチュウ)には四五枚の堵物(トブツ)もある。連れて行けば
行かれる。細君も行きたいだろう、僕も連れて行ってやりたい。
是非連れて行ってやりたいがこう悪寒がして眼がくらんでは電車へ乗るどころか、靴脱(くつぬぎ)
へ降りる事も出来ない。
ああ気の毒だ気の毒だと思うとなお悪寒がしてなお眼がくらんでくる。早く医者に見てもらって
服薬でもしたら四時前には全快するだろうと、それから細君と相談をして甘木(あまき)医学士を
迎いにやると生憎(あいにく)昨夜(ゆうべ)が当番でまだ大学から帰らない。
二時頃には御帰りになりますから、帰り次第すぐ上げますと云う返事である。
困ったなあ、今 杏仁水(キョウニンスイ)でも飲めば四時前にはきっと癒(なお)るに極(きま)って
いるんだが、運の悪い時には何事も思うように行かんもので、たまさか妻君の喜ぶ笑顔を見て
楽もうと云う予算も、がらりと外(はず)れそうになって来る。
細君は恨(うら)めしい顔付をして、到底(トウテイ)いらっしゃれませんかと聞く。行くよ
必ず行くよ。四時までにはきっと直って見せるから安心しているがいい。早く顔でも洗って着物でも
着換えて待っているがいい、と口では云ったようなものの胸中は無限の感慨である。