鶏の鳴き声のもの真似をする者や、コソ泥をする者をいう四字熟語です。
そんな技能を持つ者も、何かの訳に役に立つことがあるということのたとえです。
戦国時代の末期、斉の孟嘗君(モウショウクン:?~B.C.279年)にまつわる話として『史記・孟嘗君列伝』の中に、この【鶏鳴狗盗】が出てきます。
孟嘗君が、秦の昭王に捕(とら)われて、殺されそうになったことがありました。
そのとき、犬の真似をして盗みをするのがうまい男に、昭王への土産として贈った狐白裘(コハクキュウ)を盗み出させ、昭王の愛姫に献上してなんとか釈放されました。
逃走の途中、夜半に函谷関(カンコクカン)に着きましたが、関所は一番鶏が鳴くまでは人を通行させない決まりになっていました。
たまたま一行の中に鶏の鳴き声を真似るのがうまい者がいました。この者が鶏の鳴き真似をすると、周りの鶏が一斉に鳴き始め、関所が開かれました。こうして一行は、追手が来ないうちに国境を通過することが出来ました。
当初、孟嘗君が二人を食客として迎えたとき、ほかの食客は皆それに不満を持っていました。しかし、秦での活躍を聞くに及んで、みな敬服するようになりました。
日本でも清少納言の 枕草子 第136段に
「夜(よ)を籠(こ)めて鶏(とり)のそら音(ね)ははかるともよに逢坂の関は許さじ」
夜明け前に、(函谷関じゃあるまいし)鶏の鳴き声をまねして、
騙(だま)そうとしても、(我が家の)逢坂の関は決して
開けたりはしませんよ。
とありますのは、孟嘗君の故事によるものです。清少納言は漢籍の素養たっぷりでした。