袖をたくし上げ、腕さすりしつつ、怒りの感情を激しく高ぶらせることを言います。
【偏袒:ヘンタン】は、片肌を脱ぐことです。
【扼腕:ヤクワン】は、自分の片手でもう一方の腕を強く握りしめることです。「扼」は押さえつける意味です。
【切歯扼腕:セッシヤクワン】と、同義の四字熟語です。
『史記』刺客列伝、荊軻(ケイカ)の一場面です。
荊軻(ケイカ)は太子が樊(ハン)将軍を殺すに忍びないことを知ると、密かに樊於期(ハンオキ)に
会って言いました。
「将軍に対する秦の処遇は、まことに酷い。御両親や同族の方々は、みな殺され、
今聞くところでは、将軍の首に千斤の黄金がかかっているということです。
将軍はどうなされるのですか?」
樊於期は天を仰いで嘆息し、涙を流して言いました。
「このことを思う度に、いつも骨の髄にまで達する痛みを覚えるのです。ただどうすべきなのかが
分からないのです。」
荊軻は言いました。
「燕国の愁いを除き、同時に将軍の仇討ちもできる、たった一言で申せることがあります。」
樊於期は身をのり出して言いました、「どうすれば良いのですか?」
荊軻は言いました。
「将軍のお首を頂戴して、秦王に献上したいのです。
秦王は必ず悦んで私めに会うでしょう。その時、私は左手で秦王の袖を押さえ、右手で秦王の
胸を刺します。そうすれば将軍の仇は報いられ、かつまた燕が蒙った恥辱も除かれるでしょう。
将軍、その気がおありですかな」
樊於期偏袒扼腕而進曰
樊於期、偏袒扼腕して、進みて曰く
樊於期は、袖をたくし上げ、腕さすりしつつ、にじり出て言いました
此臣之日夜切齒腐心也。
此れ臣の日夜、切齒腐心せしことなり。
これこそ私めが日夜、歯ぎしりして心を砕いていたことです。
乃今得聞教。
乃ち今、教えを聞くを得たり、と。
今こそ、それを教えて頂きました
遂自剄
遂に自剄(ジケイ)す。
遂に自ら首をはねました。