弱い者が、自分の能力を弁(わきま)えず、強い者に立ち向かうことを表した四字熟語です。
【蟷螂】・【螳螂】はカマキリのことです。気の強い虫、かどうかは分かりませんが、相手かまわず、前足を上げて立ち向かう姿から、【蟷螂之斧】の故事が生まれました。中国古典ではあちこちに登場します。
① 『荘子』の「人間篇」には
自分の才能を誇り、相手の権威を犯すと、危険な目に会いますよという寓話として
汝(なんじ)夫(か)の蟷螂を知らざるか。その臂(かひな)を怒らして以て車轍(シャテツ)に當る。其の任に勝(た)へざるを知らざるなり。
あなたは、カマキリをご存じないかな。轢(ひ)き殺されるのも分からずに、腕を振り上げて
車の前に立ちふさがるのですよ。
② 『荘子』の「天地篇」には
魯の君主に、ある者が進言しました。その内容が進言に値しないことを【蟷螂】に譬えて笑われました。
猶(な)ほ蟷螂の臂(ひじ)を怒らして、以て車轍(シャテツ)に当るがごとき、即ち必ず任に勝へざらん。
あなたの話を帝王の徳にあててみると、あたかも、カマキリがひじを張って、車の通り道に
がんばっているようなものです。その重さに耐えられないでしょう。
③ 『淮南子』の「人間訓」と、④ 『韓詩外伝』には、同じような話が載っています。
こちらは、武勇の者を感動させるエピソードとして【蟷螂】が登場します。
斉の荘公が狩猟をしていた時、一匹の虫が出てきました。 足を振り上げて、荘公の乗っていた車の車輪に打ちかかろうとしていました。荘公は、「この虫が人間であったならば、必ず天下の武将となるにちがいない」と言い、車を迂回させてカマキリをよけて通りました。
これを聞いた武勇の人達は、(この人のためならば)と死力を尽くすべき所を知ったのでした。
⑤ 時代は下がって三国志のころ、陳琳(チンリン)が袁紹(エンショウ)のために、《曹操すでに徳を失い依るに足らず故、袁紹に帰すべし》という趣旨の書簡を劉備らに書き送った檄の中に、
・・・・・・。そこで曹操の軍は、意気阻喪して昼夜をついで敗走し、黄河を恃(たの)んで防衛線を敷いた。
蟷螂の斧を以て、隆車(リュウシャ:大軍)の隧(スイ:轍)を禦(ふせ)がんと欲す。・・・・・・・・。
蟷螂の斧によって、大軍を押しとどめようとした。
という話が 「文選」の文章篇に出ていました。