天下をかけて一度サイコロを投げる意味から、運を天にまかせて、大勝負をすることを表す四字熟語です。
【乾坤】は天と地です。【一擲】はひとたび投げること。ひとたびサイコロを投げることを表します。
【一擲乾坤】とも言われてまして、こちらは【今日の四字熟語】の「No.9」　を参照してください。

【乾坤一擲】、【一擲乾坤】は韓愈（カンユ）の『鴻溝（こうこう）を過（す）ぐ』という五言絶句の詩に出てきます。

龍は疲れ、虎は困（くる）しみて川原（せんげん）を割（さ）く
　　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・疲れた竜（項羽）虎（劉邦）は川原を境にし、
億万の蒼生（そうせい）、性命（せいめい）存す
　　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・多くの人民を死なせずに、済んだのに、
誰か君王に勧（すす）めて馬首を回（めぐら）しむ
　　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰が君主に勧めて馬を引返させ、
真（まこと）に一擲（いってき）を成（な）し、乾坤（けんこん）を賭（と）す
　　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ついに、この一擲に乾坤を賭した。

この詩は、韓愈が「鴻溝」を通過した時、項羽と劉邦の戦いを懐かしんで詠んだ詩です。
項羽と劉邦の時代（ＢＣ203年）から韓愈の時代（Ａ.Ｄ.800年頃）までほぼ1000年の開きがあります。

『史記・項羽本紀』によりますと
ＢＣ203年　【龍は疲れ、虎は困（くる）しむ】　状態に陥っていた劉邦と項羽は、「鴻溝」を境として、
西を漢（劉邦の国名）、東を楚（項羽の国名）が治めるように取り決めました。

天下を二分したことによって戦いはやみ、【億万の民の生命は保たれ】るはずであったのですが、そうはなりませんでした。最終決定戦の幕開けとなってしまいました。

戦闘態勢を解いて東へ帰って行った項羽を見送り、劉邦も西へと帰ろうとしました。
劉邦配下の張良（チョウリョウ）と陳平（チンペイ）が
「漢は天下の大半を保有し、諸侯はみな味方しております。今や楚の兵は疲れはて、食料はとぼしくなってます。今撃たなければ、虎を養って患（うれ）いを遺すというものです」と劉邦に詰め寄り、
西へ帰ろうとしていた【劉邦の馬首を東へ回（めぐら）せました】。

ここに劉邦は、【一擲（いってき）を成（な）し、乾坤（けんこん）を賭（と）す】　ことになりました。

この翌年（B.C.202年）垓下の戦いで、項羽は破れ劉邦の漢王朝成立となりました。

韓愈の脳裏には1000年の時が、いまに廻ってきた思いだったのでしょう。