【痔(ジ)を舐(ねぶ)りて車(くるま)を得(う)】と訓読みされまして、卑しいことをしてまで、大きな利益を手に入れることを言います。
『荘子:ソウジ』列禦寇(レツギョコウ)篇にみえるお話です。
戦国時代、宋の國に曹商(ソウショウ)という人がいました。王の命令で秦の國へ使者として
出かけました。
出かけた時は数台の車をもらっただけでしたが、秦王から気に入られてさらに百台もの車を
もらって帰國しました。
宋の國に帰ってくると、荘子(ソウシ)に会って自慢しました。
『貧乏で、年寄りの俺だが、大國の君主を感服させて、百台の車を戴いてきた。
この俺も大したもんだろう。』
荘子が答えて言いました
『秦王が病(わずら)って医者をよんだ時、癰(ヨウ。はれもの)を破って痤(ザ。しこり)を
つぶしたものは車一台をもらい、
舐痔者、得車五乘。
痔を舐むる者は、車五乘を得。
痔をなめた者は車五台をもらったそうだ。
所治癒下、得車愈多。
治むる所癒(いよいよ)下りて、車を得ること愈(いよいよ)多し。
直すところが下等なほど、いよいよ車はたくさんもらえる。
子豈治其痔邪、何得車之多也。
子、 豈(あ)に其の痔を治むるか。何ぞ車を得ることの多きや。
君も痔をなめて直してあげたのかい。馬鹿にたくさんの車をせしめたじゃないか。
子行矣。
子よ行(ゆ)け、と。
トットと帰れ。