【俛(フ)して胯下(コカ)より出(い)づ】と訓読みされまして、『韓信の股くぐり』の四字熟語表記です。
『十八史略』西漢、淮陰(ワイイン)の韓信についてのエピソードです。
淮陰(ワイイン)県出身の韓信は、家が貧しかったので、淮陰の城下で釣をしていました。
たまたま古綿をさらしている老婆がおり、彼の空腹を見かねて飯を振舞った。
韓信がいうに、「私が出世したら、きっとおばあさんにお礼を上げますよ」と言いました。
老婆は怒って「体格のいい大の男が空腹だったのを気の毒に思って食事をあげたまで。
お礼何ぞ、どうして望むもんかね」と言いました。
その後、淮陰の屠殺場の若者で、韓信を馬鹿にするものがあった。
仲間の多いのを頼みにして、韓信に恥をかかそうとして言うには
若雖長大好帯劍、中情怯耳。
若(なんじ)長大にして好んで劍を帯ぶと雖(いえど)も、中情は怯(キョウ)なるのみ。
貴様は図体ばかり大きくて、好んで剣なんかさげているが、心の中はびくびくものさ。
能死刺我。
能く死せば我を刺せ。
殺せるもんなら、俺を刺してみろ
不能出我胯下。
不能(あた)はずんば我が胯下(コカ)を出(い)でよ、と。
できなけりゃ、俺さまの股をくぐれ。
信熟視之、
信、之を熟視し、
韓信はじっとその男の顔を見つめていたが、
俛出胯下蒲伏。
俛(ふ)して胯下より出でて蒲伏(ホフク)す。
つと身体をうつ伏せて、はらばいになって股の下をくぐって出た。
一市人皆笑信怯
一市人皆笑信怯
町中のものは、それを見て、韓信の臆病ぶりを笑った。