【林間に酒を煖めて紅葉を焼く】という、白居易の詩『王十八(おうじゅうはち)の山に帰るを送り、仙遊寺(センユウジ)に寄題す』の中の一句です。
林の中で紅葉を集めてたき火をし、程よく燗をして酒を飲む。秋の風流な楽しみ方です。いいですね。
「燗」の字、よく見てください、日ではなく月です。
そもそも「間」という字は「閒」が正しい字体です。常用漢字に入れる時に「間」という誤字を採用してしまったのです。白川静先生が嘆いていらっしゃいました。『字統』で述べられています。
漢字の字形は一瞬にして外科的整形を受けた。漢字が生まれて以来、どのような時代にも、
このように容易に、このように無原則、このように徹底的に、全面的な変革を受けたことはない。
いまは「常用」と名を改めている。
この誤り多い字形は、
これに服従しない限り、学業を履修して社会に出ることも、社会に出て種々の活動に従うことも、
不可能となっている。
誤りを正当として生きなければならぬという時代を、私は恥ずべきことだと思う
白川先生は、相当お怒りの御様子です。
曾於太白峯前住 曽(かっ)て太白(タイハク)峰前(ホウゼン)に住まひ
かつて太白峰の麓に住み、
數到仙遊寺裏來 数(しば)しば仙遊寺(センユウジ)裏に到りて来る
しばしば仙遊寺まで行ったものだ
黒水澄時潭底出 黒水澄める時 潭底(タンテイ)出で
黒水が澄んでいる時は、潭(ふち)の底まで見え、
白雲破處洞門開 白雲破るる処 洞門開く
白雲が途切れれば、洞門が開いた
林間煖酒燒紅葉 林間に酒を煖めて紅葉を焼く
林間酒を温めるために紅葉を焼き、
石上題詩掃緑苔 石上に詩を題して緑苔(リョクタイ)を掃(はら)ふ
石の上に、緑の苔を掃って詩を書いた。
惆悵旧遊無復到 惆悵(チュウチョウ)す 旧遊(キュウユウ)復(ま)た到る無きを
かなしいかな、旧遊の地を再び踏めないこと。
菊花時節羨君廻 菊花の時節 君が廻(かへ)るを羨(うらや)む
菊の咲くこの時節、山に帰る君が羨ましい。