【虎を養いて患(うれ)いを遺(のこ)す】と訓読みされまして、
敵である者を許してしまって、後に災いを残すことの喩です。
敵に改心の情がみられないときは、後顧の憂いを断つためにも何らかの処分をすべき、と司馬遷は
『史記』項羽本紀に記述しました。
「養虎」は敵である虎を養うという意味から、敵を許してしまうことです。
「遺患」は後に災いの元になるものを残すことです。
劉邦が項羽の討伐を迷っていたときに、今追撃しないことは【虎を養い憂いを後に遺す】ことになると説いた故事から。
項王已約,乃引兵解而東歸。
項王、已(すで)に約し、乃ち兵を引き、解きて東歸す。
項王は協定をすませると、軍を引き連れ、戦闘体勢をを解いて東に帰った。
漢欲西歸。
漢、西歸せんと欲す。
漢王(劉邦)も西にかえろうとした。
張良、陳平說曰
張良・陳平、說きて曰く
すると、張良と陳平がすすめた、
漢有天下太半、而諸侯皆附之。
漢、天下の太半を有して、諸侯、皆これに附く。
わが漢は天下の大半を領有しておりますし、しかも諸侯はみな漢の味方です。
楚兵罷食盡、此天亡楚之時也。
楚、兵罷(つか)れ食盡(つ)く、此れ天が楚を亡ぼすの時なり。
楚は兵力が疲弊し食糧も底をついております。いまこそ天が楚を亡ぼす時です。
不如因其機而遂取之。
其の機に因(よ)りて遂に之(こ)れを取るに如(し)かず。
この機をのがさず楚を攻略してしまうに限ります。
今釋弗擊、此所謂養虎自遺患也。
今、釋(す)てて擊(う)たずんば、此れ所謂(いわゆる)
【虎を養いて患(うれ)いを遺(のこ)す】なり、と。
今、すておいて攻擊しなければ、此れ所謂(いわゆる)
【虎を飼ってみずから後日の心配ををのこす】というものですぞ。
漢王聽之。
漢王、之れを聽く。
漢王はかれらの勧告に従うことにした。