仇討ちや復讐をするために、非常に苦労することを表した四字熟語です。
『史記』刺客列伝のなかの、豫讓(ヨジョウ)伝にある言葉です
春秋時代、晋の豫讓は主君の仇討ちをするために
【漆身】:漆を身体に塗って皮膚病を装い、
【呑炭】:炭を呑んで声が出ないようにして
機会をうかがったという故事によります。
春秋時代、晋の最大の権力者であった知伯(チハク)を、晋陽の戦いで滅ぼした
趙襄子(チョウジョウシ)は、知伯を怨むこと甚だ大であった。
そこでいつしか、知伯の頭蓋骨に漆を塗り酒器にしたと言う噂が巷に流布した。
この噂を耳にして、趙襄子を讎と狙うようになった刺客がいた。その名は豫讓。
豫讓は始め范(ハン)氏に、次に中行(チュウコウ)氏に仕えていたが、認められない
まま其の下を去り、知伯に仕えた。すると知伯は、豫讓の才を認めてくれて、篤く
「士」として遇してくれたのである。その恩義たるや、忘れ得るものではなかった。
豫讓遁逃山中曰。
豫讓、山中に遁逃(トントウ)して曰く
豫讓は山中に逃れて、こう言った。
嗟乎。士爲知己者死。女爲說己者容。
嗟乎(ああ)、士は己を知る者の爲に死し、女は己を說(よろこ)ぶ者の爲に容(かたちづく)る。
ああ、士は自分を知ってくれる者の為に死に、女は自分 を愛する者のために着飾る。
今智伯知我。我必為報讎而死。
今、智伯、我を知る。我、必ず為に讎(あだ)を報いて死し、
今、智伯樣に理解された私だ。必ず、その仇を討って死にまする。
以報智伯。則吾魂魄不愧矣。
以て智伯に報じなば、則ち吾が魂魄(コンパク)、愧(は)じざらん。
そうして、智伯樣に報告できれば、私の魂魄も恥じることはあるまい。
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居頃之。豫讓又漆身為厲。
居(お)ることこれを頃(しばらく)して。豫讓又(ま)た身に漆して厲(ライ)の爲(まね)し。
しばらくして、豫讓はまた、体に漆を塗って癩病やみをよそおい、
吞炭為啞。使形狀不可知。
炭を呑みて啞(おし)と爲(な)り、形狀をして知るべからざらしむ。
炭を飲んで啞(おし)になり、かくて人には見分けのつかぬ風貌にかわった。、
行乞於市。其妻不識也。
行くゆく市に乞(ものご)いするに、其の妻も識(し)らざるなり。
市場に行き物乞いをして歩いたが、かれの妻さえそれとは気がつかなかった。