大勢の人の中から、一人選ばれて愛情を独り占めすることを表した言葉です。
白居易『長恨歌:チョウゴンカ』の一節です。
『長恨歌』は、唐の玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードを歌った120句の七言古詩です。
第1句目が有名な【漢皇重色思傾國:漢皇、色を重んじ傾國を思ふ】に始まりますように
現王朝に遠慮して、漢の武帝と李夫人の物語に置き換えています。
『長恨歌』は白居易が34歳の時(806年:元和元年)の作です。楊貴妃が馬嵬(バカイ)で殺されたのは、756年(至德元年)で、楊貴妃が37歳の時でした。
ですから、50年ほど前のお話ということになります。
長い詩ですので、【寵愛一身】の前後、17句目から26句目を記載します。
17 承歓侍宴無閑暇 歓を承(う)け宴に侍して閑暇(カンカ)無く
帝のお相手やら宴席のお勤めやら、貴妃にはまるで暇がない
18 春従春遊夜専夜 春は春の遊びに従ひ夜は夜を専らにす
春には春の行楽に付き従い、夜には枕を独り占め
19 後宮佳麗三千人 後宮の佳麗三千人
後宮にひしめく三千の麗人
20 三千寵愛在一身 三千の寵愛一身に在り
その三千人分の寵愛がいまや一身に注がれる
21 金屋粧成嬌侍夜 金屋(キンオク)粧(よそほ)ひ成りて嬌として夜に侍し
黄金の館では粧いを凝らし、あでやかに夜のおとぎ
22 玉楼宴罷酔和春 玉楼(ギョクロウ)宴罷(や)んで酔ひて春に和す
玉のうてなの宴が尽きれば、後には春と溶け合う酔い心地
23 姉妹弟兄皆列土 姉妹弟兄皆土を列(つら)ぬ
姉妹兄弟みな御領地を賜り
24 可憐光彩生門戸 憐れむべし光彩の門戸に生ずるを
ああなんと、目も眩む御一門の栄華
25 遂令天下父母心 遂に天下の父母の心をして
かくして世の親たちは、
26 不重生男重生女 男を生むを重んぜず女を生むを重んぜしむ
男子の誕生を寿(ことほ)がず、女子の誕生を望むことになった。