相手を簡単に打ち負かしてしまうことの譬えです。
【鎧袖】は、鎧(よろい)の袖(そで)。
【一触】は、ほんのちょっと触れること。
鎧の袖でほんの少し触れただけで、簡単に相手を打ち負かしてしまうこと。
頼山陽の『日本外史』卷二。『源氏正記』源氏上で、保元の乱(1156年)の記述のところで、源爲朝のせりふにでてくる四字熟語です。
為朝進みて言いて曰く、
臣、大戦二十、戦職二百、以て九国を芟鋤(センジョ)せり。
私は、大きな戦いは20回、小さな戦は200回やり、その結果九つの国をとりました。
小を以て衆を撃つは、毎に夜攻(ヤコウ)に利ある。
少ない人数で多くの敵を撃つには、常に夜襲が有利です。
臣請う、今夜高松殿(たかまつでん)を襲い、其の三方に火して、而して之を一面に要せん。
今夜高松殿を襲い、その三方を火攻めにし、敵を一カ所に集めましょう。
其の善く戦う者は、独り臣が兄義朝(よしとも)有るのみ。
敵で善く戦う者は、私の兄の義朝だけです。
然れども臣一矢にて之を斃(たお)さん。
私が一矢で兄をたおしましょう。
至如平清盛輩、臣鎧袖一触、皆自倒耳
平清盛の如きに至りては、臣の【鎧袖一触】せば、皆自ら倒れんのみ。
平清盛などにいたっては、私の鎧の袖が一たび触れれば皆勝手に倒れるだけです。
則ち、乗輿(ジョウヨ)必ず出でざるを得ず。
そこで、敵の御輿が出てこないわけにはいきませんから、
臣乃ち矢を其の従兵に加へ、輿を此に徒(うつ)して、而して陛下を彼に奉ぜんこと、
私がその御輿に従う兵に矢を射て、御輿をここへうつし、陛下をあちらへおうつしいたすこと、
易(やす)きこと掌(たなごころ)を反すが如し。
手のひらを返すほど簡単なことです。
則ち東方未だ白まざるに、大事集らん、と。
まだ夜の明けぬうちに決行致しましょう(勝利間違いなしです)。
今日1月3日は、戊辰戦争の緒戦となった、鳥羽(とば)・伏見(ふしみ)の戦いが始まった日です。
装備で劣る旧幕府軍は敗退し、5日後に徳川慶喜は海路江戸へ向かい、新政府軍は慶喜追討令をうけて江戸へ進撃しました。