孟子の母が、学業を途中で帰って来た孟子に、織りかけていた糸を断ち切って戒めた故事に基づく四字熟語です。
『列女伝』母儀に記載されている内容を訓読文と私訳で掲載します。少し長いですが。
孟子の少(わか)きとき、既に学びて帰るに、孟母方(まさ)に織る。
孟子が若い頃、学び終えて家に帰ったとき、母親はちょうど機織りをしていました。
問ひて曰く、学何(いづ)れに至る所ぞ、と。
(母親が)尋ねました。学問はどこまで進んだの。
孟子曰く、自若たり、と。
孟子は、まあまあです、と答えました。
孟母刀(トウ)を以(もつ)て其の織を断つ。
(すると)母親は刃物で織(はた)を切ってしまいました。
孟子懼(おそ)れて其の故を問ふ。
孟子は驚いてその訳を尋ねました。
孟母曰く、
母親は言いました。
子の学を廃するは、吾(われ)の斯(こ)の織を断つが若(ごと)きなり。
あなたが学問を止めてしまうのは、私がこの織物を切ってしまったようなものです。
夫(そ)れ君子は学びて以て名を立て、問ひて則(すなは)ち知を広む。
そもそも君子というのは、学んで名を立て、問いて知識を広めるものです。
是(ここ)を以て居(お)れば則ち安寧にして、動けば則ち害に遠ざかる。
こうすることで、家にいるときは安らかで、活動するときは災難から遠ざかるのです。
今にして之を廃するは、是(こ)れ廝役(シエキ)を免れずして、以て禍患より離るる無きなり。
今、学問を止めてしまうと、召使いになることを免れず、災いから遠ざかることもありません。
何を以て織績(ショクセキ)して食するに、中道にして廃して為(な)さざるに異ならんや。
どうして、布を織って生計を立てるのに、途中で止めてしまうことがあるでしょうか。
寧(いづ)くんぞ能(よ)く其の夫(フ)子(シ)に衣(き)せて、長く糧食に乏(とぼ)しから
ざらしめんや。
どうして、夫や子供に服を着せ、食料を乏しくさせないことができるでしょうか。
女則ち其の食する所を廃し、男則ち徳を脩(おさ)むるを堕(おこた)れば、
窃盗を為さずんば、則ち虜役と為らん、と。
女が生計を立てることを止め、男が徳を修めることを怠れば、
盗みをしないのでなければ、召使いとなってしまいます。
孟子懼れて、旦夕(タンセキ)学に勤めて息(や)まず。
孟子は恐れて、朝夕学問に励み、休むことがありませんでした。
子思(シシ:孔子のお孫さん)に師事し、遂(つい)に天下の名儒と成れり。
子思に師事し、遂には天下の名高い儒者となったのです。