「酔っ払いの仙人」が文字通りの意味ですが、ただの酔っ払い仙人ではありません。
李白のことを言った四字熟語です。
お酒を飲んで世の憂さを晴らしているが、どんなに呑んでいても、百篇の秀作はいとも容易(たやす)いこと。これぞ酒仙・李白。失礼『李白詩仙』。
杜甫の作った『飮中八仙歌』で李白を詠ったところにでています。7言×22句の少し長い唐詩ですが全掲しました。⑥が李白を詠ったところです。
①知章騎馬似乘船、 知章(チショウ)は馬に騎るは船に乘るに似て
馬に乗れば、船に乗るに似てゆらゆら揺れている
眼花落井水底眠。 眼は花み井に落ちて水底に眠る
目がかすみ、井戸に落ちても、眠ってる
②汝陽三斗始朝天、 汝陽(ジョヨウ)は三斗にして始めて天に朝し
汝陽は三斗の酒を飲み、やっと天子に拝謁する
道逢麴車口流涎、 道にて麴車に逢へば口より涎を流す
道で麹(こうじ)を積んだ車に出逢えば涎(よだれ)を流し
恨不移封向酒泉。 恨むらくは封を移して酒泉に向かはざるを
おしむらくは、領地を酒泉に移されず
③左相日興費萬錢、 左相(サショウ)は日興に萬錢を費やし
日々の遊びに大金を使い
飮如長鯨吸百川、 飲むこと長鯨の百川を吸ふが如く
大きな鯨があらゆる川を飲み干すように
銜杯樂聖稱避賢。 杯を銜みて「聖を樂しみ 賢を避く」と稱す
杯をふくんで、清(す)んだ酒を楽しんで、濁った酒はお断り
④宗之瀟灑美少年、 宗之(ソウシ)は瀟灑なる美少年
崔宗之は、垢ぬけた美少年
舉觴白眼望青天、 觴を舉げ白眼にて青天を望み
杯を挙(あ)げて、世には白眼を向け青空をながめる
皎如玉樹臨風前。 皎として玉樹の風前に臨むが如し
清らかなこと、玉樹が風に揺らぐが如し
⑤蘇晉長齋繡佛前、 蘇晉(ソシン)は長齋す繡佛の前
蘇晋は、長きに亘(わた)って仏前で物忌みするが
醉中往往愛逃禪。 醉中往往にして逃禪を愛す
醉うとしばしば禪から逃げ出す癖が有る
⑥李白一斗詩百篇、 李白(リハク)は一斗にして詩 百篇
李白は一斗あおれば百首の詩を作り
長安市上酒家眠。 長安市上酒家に眠る
長安の酒家で眠る
天子呼來不上船、 天子呼び來れども船に上らず
天子様に呼ばれても、船には乗れず
自稱臣是酒中仙。 自ら稱す「臣は是れ酒中の仙なり」と
「私めは、酒浸りの仙人でございます」と
⑦張旭三杯草聖傳、 張旭(チョウキョク)は三杯にして草聖と傳ふ
張旭は酒三杯で草書の名人と言われ
脱帽露頂王公前、 脱帽して露頂す王公の前
貴人の前でも冠をつけず、頭を丸出しで
揮毫落紙如雲煙。 毫を揮ひ紙に落とせば雲煙の如し
筆をふるって書き出せば、雲煙湧き起る
⑧焦遂五斗方卓然、 焦遂(ショウスイ)は五斗にして方に卓然たり
焦遂は、五斗の酒で、すっくと立ち上がり
高談雄辨驚四筵。 高談雄辨は四筵を驚かす
よどみない達弁は、辺りの人を驚かす