老子独特の言い回しで、『何もせず何も言わなくても、万事うまくいく』というのが【無為不言】です。
『老子』43章のなかでは【不言の教え、無為の益は、天下、之に及ぶもの稀なり】となっています。
天下之至柔
天下の至柔(シジュウ)は、
馳騁天下之至堅
天下の至堅(シケン)を馳騁(チテイ)し
無有入無間
無有は無間に入る
吾是以知無為之有益
吾れここを以って、無為の益あるを知る。
不言之教 無為之益 天下希及之
不言の教え、無為の益は、天下これに及ぶもの希(まれ)なり。
加島祥造さんの名訳を記載します
固くて強いものが
世の中を支配しているかに見えるがね、
本当は
いちばん柔らかいものが、
いちばん固いものを打ち砕き、
こなごなにするんだよ。
空気や水のするように、
タオの働きは、隙のない固いものに
滲みこんで行きゆき、
いつしかそれを砕いてしまう。
何にもしないように見えるが
じつに大きな役をしているのだ。
このように、目に見えない靜かな働きは
何もしないようでいて深く役だっている。
これは、この世ではなかなか
人に気づかれないんだが、
比べようもなく
尊いものなのだよ。
森鴎外の『渋江抽齋』に【無為不言】がでています。
聖人の道と事々(ことごと)しく云へども、前に云へる如く、六経を読破したる上にては、論語、老子の
二書にて事足るなり。其中にも過ぎたるは猶ほ及ばざるを身行(シンコウ)の要とし、無為不言を心術の
掟(おきて)となす。此二書をさへ能(よ)く守ればすむ事なり
森鴎外は大正11年(1922年)年7月9日に亡くなりました。今日は鷗外忌です。