人知れぬなげきと、人知れぬうらみを表した四字熟語です。
【幽愁暗恨】は、『長恨歌』と並び称されている白居易の88句からなる長詩『琵琶行』の
31句目 【別に幽愁と暗恨の生ずるあり】からとられたものです。
『琵琶行:琵琶の行(うた)』が作られたいきさつが序として述べられています。読み下し文の形で記載します。
序: 元和十年の秋、われ左遷せられて九江郡の司馬となる。明くる年の秋、客(カク)を
湓浦(ボンポ)のほとりに送って、舟中の夜に琵琶を彈じる者あるを聞く。
その音を聽くに錚錚然(ソウソウゼン)として京都(ケイト)の聲あり。
その人に問うに、もと長安の倡女(ショウジョ)にして、かつて琵琶を穆(ボク)・曹(ソウ)の二善才
に學ぶ。年長けて色衰へ身を委ねて賈人(コジン)の婦(つま)となる。
ついに酒を命じてよく数曲を彈ぜしむ。
曲やんで憫然(ビンゼン)として、自ら少小の時の歡樂事と今の漂淪憔悴(ヒョウリンショウスイ)して
江湖(コウコ)の間に轉徙(テンシ)することを叙(の)ぶ。
予聞きて、出でて官たること二年、恬然(テンゼン)として自ら安んずるの感あるも、この人の言に
感じて、この夕に始めて遷謫(センタク)の意あるを覺ゆ。
よって長句の歌をつくり以てこれに贈る。
凡(すべ)て六百一十六言、命(なづけ)て琵琶行といふ。
【幽愁暗恨】の前後数句を記載します。
29水泉冷澁絃凝絶 氷の泉は冷かに渋りて絃は絶えしかと凝われ
凍った泉のように、絃の音が凍り付いてとどこおり絶える
30凝絶不通聲暫歇 絶えて通ぜざるかと 凝うとき声は暫らく歇(や)む
(音色が)凍り付いて、留まってしまい、音(ね)が暫くやむ
31別有幽愁暗恨生 別に幽愁暗恨(ユウシュウアンコン)の生ずるあり
(音楽とは)別に、人知れぬなげきと、人知れぬうらみが生じてきた
32此時無聲勝有聲 此の時 声無きは声有るに勝る
この(音色が止んだ)時は、音が無い方が音があるのに勝っている
33銀瓶乍破水漿逬 銀瓶(ギンベイ)乍(たちま)ち破れて水漿(スイショウ)逬(ほとばし)り
銀のビンが突然、割れて、(中の)飲み物がほとばしり散った
34鐵騎突出刀鎗鳴 鉄騎(テッキ)突出して刀槍鳴る
武装した軍馬が突撃をかけて、刀や槍の触れ合う音が鳴る
35曲終収撥當心畫 曲終り 撥(ばち)を収めて心(むね)に當りて画す
曲の最後、バチを払って(弦の)真ん中をかき鳴らしておさめた。
天正10(1582)年6月2日(日付は旧暦のまま)、京都の本能寺に宿泊していた織田信長が、明智光秀の謀反によって自刃に追い込まれた日です。