世の中には、よいことが少なく悪いことが多いというたとえです。
また、よいことが少しあっても、それを蓋い隠してしまうほどの悪いことが起きてしまう、という意味でもあります。
【寸善】は、一寸の善で、少しばかりのよいこと。
【寸】は、指を伸ばした右手の形「又」に指一本という意味で「一」を添えて作られた字です。
指一本の巾が【寸】です。
【尺魔】は、一尺の悪いこと。一尺は一寸の十倍の長さですから、【寸善】より【尺魔】のほうが
十倍多いということになります。
【尺】は、拇(おやゆび)と中指とをいっぱいに広げて、下向きにした形です。
広げた巾が【尺】です。
もとの意味は、1寸の善には、その10倍の魔、すなはち尺魔がついてくるということだそうです。
仏教では、悪いこととして「十悪」が定められています。
身の三悪
①殺生(セッショウ)・・・・生き物の命を奪うこと
②偸盗(チュウトウ)・・・・盗むこと
③邪淫(ジャイン)・・・・・淫らな異性行為のこと
口の四悪
④妄語(モウゴ)・・・・・・嘘をつくこと
⑤綺語(キゴ)・・・・・・・奇麗ごとを言って誤魔化すこと
⑥両舌(リョウゼツ)・・・・二枚舌を使うこと
⑦悪口(アック)・・・・・・悪口を言うこと
意の三悪
⑧貪欲(トンヨク)・・・・・欲深いこと
⑨瞋恚(シンニ)・・・・・・怒ること
⑩愚癡(グチ)・・・・・・・恨んだり妬んだりすること
太宰治の『ヴィヨンの妻』に【寸善尺魔】がでています。
けれども、こうして手短かに語ると、さして大きな難儀も無く、割に運がよく暮して来た人間のように
お思いになるかも知れませんが、人間の一生は地獄でございまして、寸善尺魔、とは、まったく本当の
ことでございますね。一寸の仕合せには一尺の魔物が必ずくっついてまいります。人間三百六十五日、何の
心配も無い日が、一日、いや半日あったら、それは仕合せな人間です。