日本全国いたるところ、を表わす言葉です。和語です。日本で作られた四字熟語です。『つつうらうら』ともいいます。
【津】は、氵+聿 から作られた形声文字です。
本来【津】は、治療を表わす字として作られたのですが、「渡し場」を表わす字と音が同じ事から、
「津」が「渡し場」の意味に用いられるようになりました。
和語としての「つ」には① 船舶の停泊するところ。ふなつき。港。 ②わたしば。渡船場。
③人の集まる所。などの意味があります。
【浦】は、氵+甫 から作られた形声文字です。「甫」は根を包みこんだ苗木の形で、中にものを
包み込むという意味があります。
ですから、【浦】はまるく入り込んだような形の入り江を表わす字として用いられるようになりました。
和語としての「うら」には、①海や湖の彎曲して陸地に入り込んだ所。 ②一般に、海辺。
また、水際。の意味があります。
【津々浦々】は、あちこちの【津】、あちこちの【浦】ということで、いたるところの津や浦。すなわち日本全国。となりました。
周辺海の島国であればこその四字熟語です。
森鷗外の『山椒大夫』に【津々浦々】が使われています。
午(ひる)になって宮崎は餅(もち)を出して食った。そして安寿と厨子王にも
一つずつくれた。二人は餅を手に持って食べようともせず、目を見合わせて泣いた。
夜は宮崎がかぶせた苫(とま)の下で、泣きながら寝入った。
こうして二人は幾日か舟に明かし暮らした。宮崎は越中、能登、越前、若狭の
【津々浦々】を売り歩いたのである。