常に身近に置いて平生の戒めとする金言のことを【座右之銘】といいます。
後漢の学者:崔瑗(サイエン)は、早くに父を失い、また若い時、兄が殺害されてしまいました。
このことを怨み、ひそかにその犯人を探し、自分の手でその仇を打ちました。
そのため他郷に亡命せざるを得なくなりました。
のち赦(ゆる)しを得て故郷に帰ることは出来ましたが、起伏の激しい人生を体験したことを生かし、自分を戒める金言をかき集め、座右に置いて、常に自分を戒めました。
赦(シャ)を蒙(こお)むりて出(い)で、此の銘を作り以って自ら戒む。
常に座右に置く、故に【座右之銘】という。
崔瑗の【座右之銘】は以下の銘です。
1)人の短を道(い)ふこと無(な)かれ、己の長を說(と)くこと無かれ。
人の短所は追求するな、自分の長所は自慢するな。
2)人に施(ほどこ)しては愼んで念(おも)ふこと勿(な)かれ、
施しを受けては愼んで忘るること勿かれ。
人に恩を施したら早く忘れよ、だが、人から恩を受けたら決して忘れるな。
3)世譽(セイヨ)は慕(した)ふに足らず、唯だ仁のみを紀綱(キコウ)と為(な)せ。
世間の名誉を得ようなどと思うな、ただ仁を心の寄り所にせよ。
4)心に隱(はか)りて後動け、謗議(ボウギ)庸何(なん)ぞ傷まん。
心の中で十分考えてから行動に移せ、
そうすれば人に誹謗(ヒボウ)され心を痛めることもないだろう。
5)名をして實(ジツ)に過(す)ぎしむること無かれ、愚を守るは聖の臧(よみ)する所なり。
実績以上の評判がたたないようにせよ、愚直を守ることこそ聖人の奨励すること。
6)涅(くろ)に在りて緇(くろ)まざるを貴(たっと)び、曖曖(アイアイ)として內に光を含め。
黒い泥のなかにあっても黒く染まらないことが大切、愚かなようでいて内に輝きをもて。
7)柔弱は生の徒、老氏剛強(ゴウキョウ)を誡(いまし)む
柔らかくしなやかなことがこの世を生きる道、老子も剛強を戒めている。
8)行行(コウコウ)たる鄙夫(ひふ)の志、悠悠(ユウユウ)たるは故(もと)より量(はか)り難し
強がりで威張くさって生きるのはつまらぬ男の考えること、
悠々とした生き方ははかり知れないほど深い。
9)言を愼んで飲食を節し、足るを知れば不祥に勝つ。
言葉を慎み暴飲暴食をせず、足りることを心得ておれば災いにも勝てる。
之を行ひて苟(いやしく)も恆(つね)有らば、久久として自(おのづか)ら 芬芳(フンポウ)あらん。
以上のことを常に行なえば、長い間おのずから香り続けるであろう。