美しい人を形容する四字熟語です。
魚は水中に沈み、雁は山の端に落ちて身を隠すほどの美人と言うのが現在の意味ですが、出典となっている『荘子』齊物論では美人を称賛するのではなく、むしろ怖がっている話になっています。
齧缺問乎王倪曰
齧缺(ゲッケツ)、王倪(オウゲイ)に問いて曰く
齧缺が、(その師匠である)王倪に質問しました。
毛嬙麗姫、人之所美也、
毛嬙(モウショウ)・麗姫(リキ)は、人の美とする所なり
毛嬙・麗姫は、人は誰もが美人だと考えるが
魚見之深入、
魚は之を見れば深く入り、
魚はそれを見ると水底深くもぐりこみ、
鳥見之高飛、
鳥はそれを見れば高く飛び、
鳥はそれを見ると空高く飛び上がり、
麋鹿見之決驟。
麋鹿は之を見れば決して驟(はし)る。
鹿はそれを見ると跳び上がって逃げ出す。。
四者孰知天下之正色哉。
四者、孰(いず)れか天下の正色を知らん。
この四者(人・魚・鳥・鹿)の中でどれが世界中の本当の美を知っていることになるのか。
毛嬙は春秋時代の越王の美姫で、麗姫は晉の献公の夫人でともに古代中国を代表する絶世の美女と言われています。
荘子独特の論法で「美」の判定に疑問を投げていますが、実は荘子が言いたかったのは直後にある次の思いです。
(世間で)仁義だとか、是非だとか言ってるが、その端緒や道筋は雑然と混乱して、何が仁で、何が義であるのか、またいずれが是で、いずれが非であるのかなど、その区別はちょっとやそっとでは見わけることができないのだ。
10月8日は寒露。鴻雁来(コウガンきたる)です。