「羮(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹く」と訓読みされています。
一度失敗したのに懲りて、度の過ぎた用心をすること、を意味します。
「膾」:野菜や肉などを細かく切って酢づけにした食品です。魚の肉を使った場合は「鱠」の字を使います。
「羮」:肉に野菜を混ぜて作った吸い物。 羊の肉が古代御馳走でした。
「羮」の字は「羔」と「美」から出来ていまして、どちらにも羊が入っています。それほどに羊の肉は美味しかったようです。ちなみに「ヨウカン」も羊の肉に関係して出来た食品です。
「羊羹:ヨウカン」は、もと中国の料理で、羊の羹(あつもの)でした。羊の肉を煮たスープが、冷めると肉のゼラチンによって固まり、自然に煮凝りの状態となります。これが「ヨウカン」のもとのかたちです。
「羹」の字を「コウ」と読むのは漢音で、「カン」と読むのは近世中国語に由来する唐音です。
「羊羹:ヨウカン」は鎌倉時代から室町時代に、禅僧によって日本に伝えられましたが、禅宗では肉食が禁じられているため、精進料理として羊肉の代わりに小豆を用いたものが、日本における羊羹の原型になったようです。
初期の羊羹は、小豆を小麦粉または葛粉と混ぜて作る蒸し羊羹でした。
天正17年(1589年)、和歌山の駿河屋岡本善右衛門によって、寒天に餡を加え、さお状に固めた煉羊羹がつくられました。こうして羊羹は日本独自の菓子となったそうです。
羊羹に関しましては他にもいろいろ説があります。
「羮(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹く」は戦国末期、楚の屈原(クツゲン:B.C.340~B.C.278)の詩に出てきます。
屈原は、おとろえかけた楚の国を盛り返そうと努力しましたが、反対派の讒言(ザンゲン)によって退けられ、汨羅(ベキラ)の淵に身を投げてしまいます。生前、夢占いを頼んだ巫女が屈原に忠告した内容が、『楚辞』の「九章」中の「惜誦」と題する詩の中にでています。
羮に懲りて膾を吹く、
何ぞ此の志を変ぜらんや。
これまで、あなたは身の安否を顧みず、君主に忠実に仕えたが、讒言によって危うい目に会った。熱い吸い物で口をやけどしたのに懲りて、冷たい膾も吹くと言う。それなのにあなたはどうして自分の志を変えようとしないのか。