特定の人にだけ心をかたむけ、みんなに公平でないこと。また、好きなほうにだけ、肩入れすることを表わす四字熟語です。
【依】は、人と衣とを組み合わせた会意文字です。呉音:エ、漢音:イ です。衣には人の霊が
憑(よ)りつくと考えられたので、霊を移す儀礼が有ったそうです。それで「よる、よりそう」の
意味になりました。
【怙】は、忄+古 から作られた形声文字です。音符号の古は固の意味ももって、固まる、すなはち
特定の人への期待が固まり、そこから「たのむ」の意味となりました。
【依怙】は、漢語で「イコ」と読んで、たよる・たのみとする と言う意味です。
「エコ」と読むと、エコヒイキ、不公平の意味となります。
【贔】は、貝を三つ重ねた会意文字で、音は、「ヒ」です。「貝」が三つあることから、財貨が多く
あることを表し「この財貨を多く抱える」が、変化して「盛んに力を使う」などの意味をもつように
なりました。
【屓(屭)】は、尸+贔の会意文字です。音は、「キ」です。
尸は、人体の象形です。贔は上述のように「盛んに力を使う」となります。
【屭】の意味は、【贔】と同じ様に、力のある様子、盛んなさまを表わします。
【贔屓(屭)】は、「ヒキ」が変化して「ヒイキ」となりました。「詩歌:シカ」が「シイカ」と読むのと同じ
慣用読みです。「ヒキ」は、力を入れた時にでる声の擬声語でした。
日本語で、「好きなほうにだけ、肩入れする」と言う意味になりました。
中国の伝説によりますと、「贔屓」は龍が生んだ9頭の神獣のひとつで、その姿は亀に似ていたそうです。重いものを背負うのを得意とし、そのため古来石柱や石碑の土台に用いられることが多くなりました。
日本の諺「贔屓の引き倒し」とは、柱の土台である贔屓を引っぱると柱が倒れることからだそうです。
【依怙】だけで、【依怙贔屓】の意味を持ち、更に【贔屓】の語を重ねることで、
かたよったさまを強調しました。
夏目漱石『坊っちゃん』の一節です。
清が物をくれる時には必ずおやじも兄も居ない時に限る。おれは何が嫌いだと云って人に隠れて
自分だけ得をするほど嫌いな事はない。兄とは無論仲がよくないけれども、兄に隠して清から菓子や
色鉛筆を貰いたくはない。
なぜ、おれ一人にくれて、兄さんには遣(や)らないのかと清に聞く事がある。
すると清は澄(すま)したものでお兄様はお父様が買ってお上げなさるから構いませんと云う。
これは不公平である。おやじは頑固だけれども、そんな【依怙贔負】はせぬ男だ。しかし清の眼から
見るとそう見えるのだろう。