幼児が大切に育てられることを言います。
乳母をつけたり、外出には強い日に当たらぬように傘を差しかけたりすることです。
子供が大事に育てられること、また何の苦労もなく育てられたという意味で使われることが多いです。
泉鏡花『婦系図』に【乳母日傘】がでてきます。
貴女、それこそ【乳母日傘】で、お浅間へ参詣にいらしった帰り途、円い竹の埒(ラチ)
に摑(つかま)って、御覧なすった事もありましょう。道々お摘みなすった鼓草(タンポ
ポ)なんぞ、馬に投げてやったりなさいましたのを、貞造が知っています。
『婦系図』といいますと、すぐ思い出されるのは
「別れろ切れろは芸者の時に言う言葉。今のわたしにはいっそ死ねと言って」
です。
【乳母日傘】は文芸作品によくみる言葉ですが、他に
歌舞伎の『三人吉三(さんにんきちざ)廓(くるわの)初買(はつがい)』にも
お乳日傘(おんばひがさ)でそやされた、お坊育ちのわんぱくが異名になった
此(この)吉三(きちざ)。
と、でていました。
『三人吉三』といえば
月も朧(おぼろ)に 白魚の
篝(かがり)も霞(かす)む 春の空
冷てえ風も ほろ酔いに
心持ちよく うかうかと
浮かれ烏(からす)の ただ一羽
ねぐらへ帰る 川端で
竿(さお)の雫(しずく)か 濡れ手で粟(あわ)
思いがけなく 手に入る(いる)百両
ほんに今夜は 節分か
西の海より 川の中
落ちた夜鷹は 厄落とし
豆だくさんに 一文の
銭と違って 金包み
こいつぁ春から 縁起がいいわえ
の名台詞がよく知られています。