人の道に、はなはだしくそむいた行ないをいいます。【悪逆】も【無道】も同じ様に、人の道にそむいた、道徳にはずれた悪い行いをいいます。同義の熟語を重ね、意味を強調したものです。
【悪逆】は、日本古代の「律令法」においてもっとも重いとされた8つの犯罪の内の一つでもあります。
基本的に死刑でした。貴族といえども減刑は許されず、恩赦の対象にもならなかったそうです。
「唐律令」の「十悪」を元にして、その中から「不睦:家庭不和」と「内乱:一族を乱す犯罪。
特に不倫、近親相姦など。現在の内乱と意味は異なります」の2つを除いた、八つを
「八虐」と言います。【悪逆】はその4番目になっています。
因みに「八虐」は
1)謀反(ボウハン)
2)謀大逆(ボウタイギャク)
3)謀叛(ボウハン)
4)悪逆(アクギャク)
尊属殺人。祖父母・父母の殺害を謀ったり、
妻が夫や夫の父母を殺害する罪をいいます。
5)不道(フドウ)
6)大不敬(ダイフケイ)
7)不孝(フキョウ)
8)不義(フギ)
【無道】は道にはずれた悪い行い。また、その人をいいます。『論語』顔淵篇に
季康子(キコウシ)政を孔子に問うて曰く、
季康子が政について、孔子に聞きました
如(も)し無道を殺して、以て有道に就(つ)かば、
(国をうまく治める為に)無道の者(悪人)を殺して有道の者(善人)だけにしてしまっては
何如(いかん)。
どうだろうか。
平家物語に【悪逆無道】が使われています。
〈原文〉
親父(シンプ)入道相国(ニュウドウショウコク)体(テイ)に、【悪逆無道】にして、ややもすれば君を
悩まし奉る。その振る舞ひを見るに、一期の栄華なほ危ふし。重盛(しげもり)長子として、しきりに
諫(いさ)めをいたすと言へども、身不肖の間、かれ以つて服膺(フクヨウ)せず。枝葉連続して、
親(シン)をあらはし名を上げんこと難(かた)し。
〈現代語訳〉
父入道相国の様子を見るに、悪逆無道にして、なにかにつけて帝を悩まし奉っております。
重盛は長子としてしきりに諌めいたしておりますが、我が身不肖のため、
父は私の忠告を聞いてくれません。
一族が、親の名を天下に上げ、その功績を後世にとどめることは難しいでしょう。