雪解けを待って、正月の3が日以来、久しぶりに生家を訪れた。阿武隈山地の里山に囲まれた生家の土手には梅の花が咲き、なごり雪の間からはところどころフキノトウも顔をのぞかせていた。南に面し陽当たりのよい場所だが、それでも連日厳しい寒さが続いているせいか、梅の開花は1カ月ほどの遅れだ。

▼梅の木のほかにも、柿、ユズの木などがそこかしこに植えてあった。震災・原発事故以降、手入れが行き届かずにある様子が見て取れる。それでも土手の木々からは、ほのかな香りの春めいたにおいが漂ってきた。梅の花とは違うなと気づき、辺りを見渡すと、香りは沈丁花（じんちょうげ）だった。常緑低木の花はすっかり雑木に格下げされていた。淡紅色の、香りの強い小さな花々が土手のあちこちに散見された。

▼すでに2月も半ば。春の訪れを待つ間にも、雪中から草花の芽が吹き出し、春は確実にやってくる。これから土筆（つくし）やタンポポが顔を出してくるが、春の息吹を感じ取れない人も多い。原発事故により、長年住み慣れた故郷を離れ、異郷の地で過ごしている人たちだ。野の花も庭木もない仮設住宅で2度目の冬を迎えているお年寄りたち。気持ちを察するに余りある。

▼先日、時の人でもある小泉進次郎衆院議員ら自民党青年局の一行が福島市南矢野目の仮設住宅などを訪れた。生活の様子などを見て回り、避難者たちを励ました。水を差すつもりはないが、浪江町の町民の何人かが言っていた。「『復興をやります』とはオレたちにも言える。口先だけで温かみもない」「がんばってと言われても、もう疲れた」と。この言葉に隠された真意を理解できるのは、「寄り添い、接する」ことである。たんなる急ぎ足の視察ではない。総理にも同じことが言える。【天下無双】

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・2・13）