日本経済の浮上と再生を狙う「アベノミクス」は、安倍政権の経済政策の大きな目玉であり、世界の国々がこれを注視している。デフレ脱却を目指した金融緩和、財政出動により市場は即座に反応、円高から円安にシフト。日本銀行とは物価2％引き上げ目標で協定を結んだ。円安～株高～輸出の回復と連鎖し、経済の元気を取り戻した感がある。一方でガソリン、灯油を中心に原材料などの輸入コストが一気に跳ね上がった。庶民は元気どころか、四苦八苦の体だ。

▼物価が上がり、企業業績が上向いても、国際競争の中での価格競争は避けられず、すんなり賃金アップとはとても考えられない。2％のインフレ目標は、例えば100円のモノが102円に値上げされるようなもの。原材料を輸入に頼る企業は、コスト増を製品に転嫁するだけでなく、場合によっては人件費の削減も考えなくてはならない。企業は再び設備投資を控え、内部留保をため始める。となると、賃上げには遠く及ばない現実がある。

▼物価さえ上がればいいという視野狭さくな考えでいくと、スタグフレーション（物価上昇化のインフレ）のような状況を引き起こしかねない。例えば、賃金が上がったとしても今の日本の成熟社会で果たしてどれだけ購買力が増えるだろうか。よほどの魅力ある商品を開発しない限り、消費者は見向きもしないだろう。経済の3本の矢といわれる金融緩和、財政出動のほかに、成長戦略がある。ところが、その先に見えるのは長広重大な原発産業の促進である。安倍政権発足以来、どういうわけか再生可能エネルギーが鳴りを潜めている。

▼安倍首相は12日に経団連、経済同友会、日商の経済3団体に対し、業績の改善した企業に給与の引き上げを要請するというが、企業の期末決算を含めて景気自体はまだまだ不透明である。春闘での引き上げは一部企業にとどまりそうな気がするが…。「政権1カ月余りで株価は上がり、状況が次々改善したではないですか」と首相は胸を張るが、庶民の暮らしとは随分乖離しているお坊ちゃまの発想だ。申し訳ないが、そんな短絡的な経済理論では心もとない。【天下無双】

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・2・11）