元外務事務次官で立命館大教授の薮中三十二（みとじ）さん（65）は郡山市で講演し、日本が直面する外交課題と米中韓露、アセアン、EUを軸にした国際社会の展望を解説した。
　薮中さんは「タカ派的な安倍政権の誕生や中国との緊張関係で、世界が日本を注目するようになった。日本が世界の関心事になることは大きなチャンスだが、間違えば大変なことにもなる」と述べ、現在の状況が二律背反の微妙な段階にあることをにじませた。
　安倍政権が掲げる金融緩和、財政出動、成長戦略政策の“アベノミクス”に関しては「世界中で認知され、日本は前進したと評価されている。20年間関心がなかった日本への大きな期待感もある」とした。
　日中対立の火種となっている尖閣諸島の領有権問題については「（領土支配への日本側の一連の行動で）中国が第1幕の（世界への）報道合戦に勝った。反日暴動は日本が領土問題で引き起こした結果であるとの言い分が刷り込まれ、世界はほとんど報道しなかった。2幕目は国際的宣伝で日本が頑張っていると評価されている」と国際世論を分析した。
　一触即発の緊張関係にある日中両国が軍事衝突した場合の日米安全保障条約の取り扱いにも言及。「安保条約の5条は、米は日本を守るとしているが、『武力攻撃があった時に適切な措置をとる』という点を再認識しておく必要がある」と述べた。
　米国のオバマ政権が東アジア重視を掲げている点では「米経済の輸出先として大きなポテンシャルに考えている」とし、米の世論調査においても「中国が一番のパートナー（中国45対日本25）と答えている。（こうした点を踏まえ）日中関係をどうするか、日本は（米との交渉で）筋を通すことが求められる」と指摘した。
　その上で、「中日韓は世界の経済（GDP）でトップ10に並んでいる」とし、東アジアにおける経済的枠組みの重要性を説いた。
　韓国との竹島（韓国名・独島）問題は「竹島は岩でできた日比谷公園ほどの面積で、島自体に経済的な価値はない。むしろ重要なのは海洋権益。ここを冷静に対応しなければならない」とした。
　ロシアが日本に期待する極東シベリア開発や、親日的なアセアンとの連携にも言及した。

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　薮中さんは外務省・北米局時代、日米の経済関係を担当し、実務レベルの経済交渉に臨んだほか、アジア大洋州局長（六者協議首席代表）として対北朝鮮、対中国外交での拉致被害者の返還交渉と北朝鮮核問題の交渉などを担当。事務方の最高ポスト事務次官で退官し、現在は外務省顧問、大阪大教授などを務める。
　講演会は一般財団法人とうほう地域総合研究所設立30周年記念事業。同研究所、公益財団法人福島県産業振興センターが主催した。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・2・5）