人間社会がある限り、消えてなくならないのが「いじめ」の問題だ。自殺などの犠牲者が出るたびに社会の大きな問題として議論され、いつしか沈静化する。そしてまた、議論を繰り返す。いじめを語れば、対人関係において他者には踏み込めない根っこの問題がある。いじめにしろ、体罰にしろ、教育界も地域社会も何がしかの理由をつけ、本気で変わろう、変えようとしない。

▼ある国の学校では、いじめを根絶する方法に監視制度を取り入れている。いじめを見たり、受けた場合は密告できるシステムだ。携帯端末で学校の教頭に自動的に知らせる仕組みで、密告した者は一切わからないようにしている。いじめ問題を教師や生徒らが共有し、相互監視することで、見て見ないふりをなくすためという。しかし、これでは四六時中（一日中）見張りのようで、人間不信にもなりかねない。

▼もし、こうした密告制度が日本で採用された場合、人権問題となり大きな波紋を呼ぶだろう。人間不信をもはらむ密告制度は、人間がコンピューターなどに管理される近未来映画のことと思っていたが、そうではなかった。もう現実の問題なのだ。密告は手っ取り早い対処法かもしれないが、それは問題の本質的解決法ではなく、表面を糊塗しただけに過ぎない。

▼いじめや体罰は、どこからどこまでがそうなのかは判然としない。「加害者と被害者」「強者と弱者」で単に割り切ってしまってもいいものなのか、疑問が残る。だからと言って、犯罪行為に至るいじめ、体罰を見過ごすことはできない。絶望のふちに追い詰められていった若者たちがどんな思いで自らの命を断ったか。大切な子どもを失った家族の無念はいかばかりか、察するに余りある。

▼もはや教育、学校現場だけでなく、いじめや体罰は社会全体の問題である。「軍隊なら体罰はあたり前」という意見があるが、それでは何の解決にもならない。自衛隊員の自殺は年々増えているという。競争社会の中で鍛えられる人もあれば、ズタズタにされる人もいる。社会のひずみ、人の差別が起因していることも忘れてはならない。未来ある大切な子どもたちの教育。例えば、垣根を取り払い、民間などからのプロの指導者を積極的に受け入れることも考えるべきだ。老若男女を問わず素晴らしい方がたくさんいる。【天下泰平】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・2・4）