安倍政権の目玉政策のひとつでもある社会保障制度改革国民会議での麻生副総理・財務相の発言は、一部表現の撤回では済まされない暴言だ。軽々しい発言の目立つ政治家の共通点は、裕福な環境に育ち、人の苦しみまで及びつかないところにあると思う。思い至らない点では、東京電力福島第一原発の事故対応も同じ。題目のように「現地主義」などと唱えても、終息宣言を早めたい一心なのが見て取れる。

▼麻生氏の問題の発言は、終末期医療に触れる中で「さっさと死ねるようにしてもらうとか、いろんなことを考えないといけない」と。終末期患者を「チューブの人間」とも。さらに「いい加減に死にてえなあと思っても、『とにかく生きられますから』なんて生かされたんじゃあ、かなわない。しかも、その金が政府のお金でやってもらっているなんて思うと、ますます寝覚めが悪い」（朝日新聞から）などと述べたという。

▼こういう人を国民のお金で養っていると思うと、本当に情けない。当の本人は裕福だから、「冗談じゃねえ。そんなの小遣い銭にもならねえ」と言ったかどうかは知らないが。それにしても以前から失言は続いている。かつて、定額給付金で「さもしい」と発言。さらに「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金を何で私が払うんだ」。保険制度をないがしろにし、「病気になるのは本人の不摂生（自己責任）のため」と受け止められ、批判を浴びた。

▼「景気浮揚」「アベノミクス」などとマスコミや経団連などからもてはやされ、企業側の論理に沿った経済最優先の姿勢を鮮明にしている安倍政権だが、一方でこうした失言による「爆弾」を抱えているのも事実。経済政策では、日銀の金融政策をねじ伏せているようにも見えるが、もしこのまま円安が急進すると、米国やEUが黙ってはいない。特に米国は巨額の財政赤字を抱え、ドル安に誘導しようにも基軸通貨ゆえに各国とのバランスから金融緩和に踏み切れないでいる。

▼それにしても、物価の2％上昇や公共事業の拡大などで60％強の支持率を示している政権だけに、麻生氏のような思い上がった発言が飛び出す。金融緩和にしても、それだけではデフレは脱却できない。インフレターゲット（物価目標）で簡単に景気浮揚するとも思えない。政府と日銀の決定により、期限を設けずに金融市場にお金を流し込む新たな金融緩和策が来年初めから始まる。市中銀行にお金が増え続ける一方、企業は依然として投資を控える。結果、物価上昇と不況が同居するという最悪の事態に陥らなければいいのだが…。【天下無双】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・1・23）