「体罰は指導に名を借りた虐待である」。大阪市の高校生の自殺問題が、政治的なものに変わり、大人の都合が優先し独り歩きが始まった。大阪市教委は21日、橋下徹市長の要請を受け入れ、市立桜宮高校体育科系の今春の募集中止を決定した。バスケットボール部主将だった男子生徒が顧問教諭の暴力行為を受けた翌日に自殺した事態を受け、橋下市長が体育科系2科の入試中止を要請していたもので、その判断には賛否がある。

▼問題解決とは別に、入試を間近に控えた生徒のことはどう考えているのか。大きな疑問が残る。体罰による自殺を重く見た橋下市長の痛恨の思いは理解できなくもいないが、これでは何の解決にも、処方にもならない。再びこうした事件を繰り返さないための歯止めとして、体罰教師をどうするか。体罰教師の温床となる人事の停滞をどうするのか。真っ先にこうした体質改善に努めなければならないのに、将来の夢を抱いて進学しようとする生徒たちがまず犠牲になっている。

▼大阪市教委の会議が開かれていた市庁舎前には、300人ほどの保護者が入試中止の反対を訴えていたという。体罰による自殺問題を、入試「やる」「やらない」に結び付ける短絡さが理解しがたい。確かに、体質改善はトップダウンの荒療治も必要である。橋下市長が、長年の隠ぺい体質に業を煮やした末の中止要請かどうかは知らないが、やはり密室的な学校教育の体質、独立機関の体をなしていない教育委員会の在り方自体にもかかわってくる。

▼教育委員会の委員は、教育に知見のある有識者から選ばれるが、実際に教育行政や公的団体に携わった学識経験者が推薦、選出されるのが通例。独立機関とはいえ、首長の権限も左右する。教育行政のトップが教育長なら、市民代表が教育委員長。形式上、教育長は教育委員から互選され、首長の任命、議会承認によって教育公務員の教育長となる。互いの立場を理解し合うのはいいが、どうも「なー、なー」の密室関係に陥ってしまう。委員の公選制を含め、根っこの問題を見直していかないと教育界の隠ぺい体質はなくならない。体罰もはびこったままである。【天下泰平】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・1・22）