公共事業の拡大、60万人の雇用創出などを掲げ、経済再生を旗印に船出した「安倍丸」だが、プラス効果が表れないうちに懸念されていた値上げの独り歩きが始まった。デフレからインフレへの切り換えは国民の生活費増を招くだけに、急激なインフレ誘導は政権の足をも引っ張りかねない。

▼政権の目玉でもある円高是正は、輸出企業の支援策では効果が表れつつあるが、逆に円安によってガソリンや灯油などが急騰。早くもマイナス面が先行し、しわ寄せを受けるのはきまって風下の消費者だ。18日には、2年7カ月ぶりに海外市場で1ドル・90円まで円安が進み、政権内部からも反発の声が上っている。甘利明経済再生担当相は15日、「過度な円安は国民生活にマイナスの影響を及ぼす」と発言し、その後、取り繕う場面も。

▼国民が音をあげている円安のひとつがガソリンの高騰だ。経産省が17日公表したレギュラーガソリンの全国平均小売価格は1㍑150円と、昨年5月以来の高値。このほか、輸入食品の春先にかけての値上げは確実で、輸入大国のわが国としては景気回復どころか、デフレスパイラルからインフレを通り越して、不況下でのインフレであるスタグフレーションの懸念さえある。

▼給料や年金は下がる傾向にあるが、これから物価はますます上がる傾向にある。過度な円安は庶民の生活を圧迫するだけでなく、急激な円の下落を招く恐れもある。保護主義的な大胆な金融緩和を打ち出す安倍首相に対し、ドイツの財務相は「アベノミクスは大きな懸念」と表明した。世界を巻き込む「通貨戦争」の引き金とならなければいいのだが…。【天下無双】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・1・18）