「いじめ」や「体罰」は今に始まったことではない。学校でも、会社や団体でも、人間社会の中に巣くう恥部行為だろう。しかし、そうした行為はなくなるどころか、現代社会においてより陰湿を極めているような気がする。筆者もかつて、いじめや体罰を受けたことがあった。自ら原因をつくり出す一端があったような気もするが、それでも滓（おり）のように今も残る。
 
▼大阪市の高校で明るみになったバスケットボール部主将の男子生徒（当時17歳）の自殺。男子生徒は顧問の男性教諭から平手打ちなどの体罰を受けた翌日、命を絶った。校長はじめ教職員ばかりか、監督機関の教育委員会までもが調査をはぐらかし、“身内かばい”する風潮は依然変わらない。被害が明るみに出るのは「氷山の一角」とも言われ、泣き寝入りするケースはまだまだ多い。
 
▼不祥事の隠ぺいは、何も教育界ばかりでなく、人が集まればどんな組織にもありがちだ。では、あってはならない行為をどうしたら一掃し、なくせるか。その手立てのひとつに「公益通報」の重要性を上げたい。公益通報とは、会社の内部の人間が、会社の法律違反行為をしかるべき機関に通報することだが、それらを公益通報者保護法とあわせて広義に解釈し、見直される必要性があるのではないだろうか。あくまでもひとつの手段ではあるが。
 
▼納得しかねるのが体罰の表現だ。言うなれば、絶対者が圧倒的権限で罰を与えているわけだ。旧軍隊ではあるまいし、平手打ちや頭をたたく行為は、暴力、傷害行為である。これを体罰と言ってのける表現も問題である。もし、生徒が教師に暴力を振るえば警察に通報され、書類送検、逮捕もあり得る。生徒に停学、退学処分はあっても、教師の停職、免職は社会の批判を浴びるようなケースや逮捕事件以外は見当たらない。
 
▼体罰問題について、元プロ野球選手の桑田真澄さん（44）が朝日新聞のインタビューに答えて、「体罰は不要」と持論を述べていた。「中学まで毎日のように練習で殴られ、思い出したくない記憶」と明かした。3年ほど前、桑田さんの講演を聞き、間近に接したことがある。スポーツ選手と言うより、求道者のような印象を受けた。講演で桑田さんは、指導の在り方をもう一度考えてほしいと訴えていた。体罰は「子どもの自立を妨げ、成長の芽を摘みかねない」「アマチュアスポーツにおいて、『服従』で師弟が結びつく時代は終わった」（桑田さん談・朝日新聞）とも。【天下泰平】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・1・13）