自民党は先の衆院選の選挙公約に「国土強靭化推進」を掲げた。そして原発に関しては「再稼働は順次判断し、全原発で3年以内の結論を目指す」ともした。かねてから安倍首相は、民主党政権が掲げた「2030年代の原発稼働ゼロ」の政策を見直す考えを示してきたが、昨年暮れ、衆目の一致する通りの原発推進へと踏み込んできた。
 
▼安倍首相が民放のテレビ番組（12月30日）で語った「原発推進」に耳を疑った人も多いと思う。軽率極まりなく、状況認識は皆無に等しい。福島に寄せる心情のかけらも見当たらないと思ってしまう。原発推進の要点はこうだ。①新たにつくっていく原発は事故を起こした福島第一原発のものと全然違う②国民的な理解を得ながら新規につくっていくことになるだろう③簡単に『脱原発』『卒原発』という言葉遊びに近い形で言ってのける人たちは信用されなかったのだと思う―と。
 
▼まず①新型原発はどのようなものかを聞きたい。「夢のエネルギー」ならぬ、「夢のマシーン」なのか②国民的な理解を得るというが、あらためて原発新増設の可否を問う世論調査を内閣府で実施すべきと考えるが③言葉遊び云々どころか、いとも簡単にこの地震大国で「原発銀座」を推し進めてきた時の政権政党の責任は。「（原発政策を）謙虚に反省し…」と言っているが、とても謙虚とは思えない。反省の字に1字が抜けており、それこそ「無反省」と訂正すべきと思うが。
 
▼一方で、福島第一原発の事故原因を調査、検証していくという。調査も始まらず、検証結果も得られぬ段階で、新しい原発の造営に踏み切るというのだから、とうてい理解しがたい。事故後に、最大野党として、しかも半世紀以上にわたって政権を担ってきた雄党がなぜ検証できなかったのか。政治の駆け引きなどはともかく、与党からの挙国一致の協力体制の呼びかけにも応じなかった。原発事故から3年目の満を持しての検証になるのか。それだけに政府事故調、国会事故調、民間事故調、社内（東電）事故調以上の検証結果を期待したい。
 
▼新年早々から苦言が続くが、日本が、世界が凍りついたあの日をお忘れか。深刻なつらい日々は被災地で今も続いている。貴君は先日、福島の地に一体何を見に来たのだろうか。こともあろうに、原発新設、改憲、自衛隊の国防軍化…一国の総理たるもの、軽々しく「言葉遊び」などするものではないと考えるが。恩師だった元成蹊高教諭が諭しています。＜教え子・安倍君へ。『立場違う人を大事に』＞（毎日新聞 2012・12・31）【笑止千万】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・1・5）