「やるせない、つらい…」。今の福島ではこうした表現がまず先に出てしまうが、それでも被災者は新年にわずかな望みを託そうとしていた。そんな儚（はかな）き年の瀬の被災者の思いを踏みつけた人がいる。こともあろうに日本国の首相だ。安倍首相は昨年暮れ、民放のテレビ番組で原発に触れ、「新たに造っていく原発は事故を起こした福島第一原発のものとは全然違う。国民的な理解を得ながら新規に造っていくことになるだろうと思う」と発言し、さらに「簡単に『脱原発』『卒原発』という言葉遊びに近い形で言ってのける人たちは信用されなかったのだと思う」とも語った。
 
▼民主党政権が掲げた「2030年代の原発ゼロ」を見直すということだけでも世の反発を買っているにもかかわらず、懲りるどころか、原発新設に言及した。それも福島原発を視察した翌日の発言である。真意がわからない。表現はけっしてよくないが、世間はこれを「なめている」「なめられたものだ」という。福島県は「脱原発」を宣言した先駆けの県。当然、相いれない関係であることは明確だ。佐藤県知事、あの災禍を経験し県議会全会一致で「脱原発」を決めたにもかかわらず、言葉遊びに一括りにされてしまった。さて、どうしますか。
 
▼6日から、前評判の高いNHK大河ドラマ「八重の桜」が始まる。明治新政府から賊軍の汚名を着せられた会津を主舞台に、幕末のジャンヌ・ダルクといわれる新島八重（山本八重）が活躍するドラマだ。了見が狭いなどとは言ってほしくはないが、山口県（長州）選出の安倍首相だけに余計気になる。よくもまあ、次々と積年の、政争の火種をばら撒くお坊ちゃまだ。
 
▼避難区域などでもあった一部地区の約500人が年末年始に限り、原発事故後初めてわが家で正月を迎えた。孫や子もそろった家庭があったかもしれない。その様子は全国にもテレビ放映され、家族の笑顔が画面にいっぱいに広がっていた。そんな日本の伝統風景をどんな思いで見ただろうか、あなたは。【天下泰平】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・1・3）