5年前の「美しい国、日本」から、今度は「力強い国、日本」にキャッチフレーズを変えて再登板した自民党の安倍晋三総裁が第96代首相に就いた。第2次安倍内閣は「危機突破内閣」として、ベテランらを配置した布陣の安定内閣というが、早くも組閣をめぐって党内対立が表面化、国民の期待とは裏腹に不安定感がつきまとう船出となった。
 
▼数合わせや参院でのねじれもあって、再び公明党との連立となったが、選挙戦であれほど声高に訴えていた自衛隊の国防軍化はいったいどこへやら。その公明党に遠慮して早々と最重要案件を引っ込めるなど、スピード感は変わり身の早さに変わった。持ち前の「原発推進」「再稼働」から「可能な限り減らす」とトーンダウン、“看板政策”は早くもお蔵入り。深謀遠慮な重厚長大の布陣も、裏を返せば「お友だち内閣」の再演になりそうな雰囲気だ。
 
▼東京電力福島第一原発の事故担当相には、安倍氏の応援団長でもある威勢のいい山本一太氏を起用しているが、果たして被災地の早期復興に望みをつないでくれるのか。ともかくも手腕に注目したい。総裁選期間中、福島第一原発を「サティアン」と呼び、批判を受けた石原伸晃環境・原子力防災担当相は27日、就任後早速、福島県の佐藤知事に面会し、除染の加速化を約束した。29日には安倍首相も本県入りし、福島第一原発で作業員を激励するほか、今年1月に「帰村宣言」した川内村を視察する予定だ。震災、原発事故からの復興に、安倍首相が自ら取り組む姿勢を鮮明にする狙いがあるとみられる。復興相は本県2区選出の根本匠氏とあって実態に明るいだけに、自ずと期待感も高まる。
 
▼ただ、肝心の安倍首相は物価上昇や建設国債増発といった政策で、かつての自民党政権のような「バラマキ政治」に戻す恐れがある。物価上昇と消費増税によって社会保障や国民生活が悪化する懸念は一層増す。後ろに控えるブレーンの意見、提案を踏襲しての発言であることは明瞭だが、偏った考えが絶対多数の大衆とあまりにもかけ離れいることに気づくかどうか、安倍政権の生命線のカギを握る。
 
▼安定重視を掲げ、なかでもデフレ脱却の経済政策は政権の最重要課題。それには、国民不在の衆院選で遅れていた、防災減災をはじめとする来年度予算案を急ぐ必要があり、年明けの通常国会は当面、経済一色となりそうだ。そんなこんなで、もはや「国難」「戦後最大の危機」は空虚な言葉に成り下がった。こうした空気を察知してか、17年ぶりに国政復帰した日本維新の会代表の石原慎太郎氏は、古巣の自民党を「自民は全然変わってない」と素っ気ない。大きな期待が絶望にならないよう、被災地からただ祈るばかりだ。【天下泰平】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・12・28）