東日本大震災、東京電力福島原発事故後の初となる衆院選が、あす4日公示される。「第2の戦後」と言われる日本の将来を占う、多党乱立の、29年ぶりとなる師走総選挙。解散前の2大政党、民主、自民に、第3極をうかがう多くの政党が入り乱れての戦いが予想され、有権者の確かな選択が問われる選挙となる。
 
▼争点は脱原発、TPP（環太平洋経済連携協定）、消費増税の3点に絞られるから、安心安全、通商、暮らしが重点公約と言ったところだろう。並べて比較するのもナンセンスだが、さて優先順位となれば何だろう。福島県にとっても、日本国にとっても原発問題だろう。しかし、現実はそう明快ではない。脱原発の後退どころか、原発良かれの推進勢力もあるわけだから。
 
▼災害大国・日本の行く末を左右し、国の存廃をも問われるのが、世界が注視するこの原発問題である。明確に脱原発を公約に掲げる政党はともかく、あとは条件付きという玉虫色の気色が漂う。気になる2大政党は、いずれも政権の座を見据えての風見鶏の行動だ。安全が保障されれば原発再稼働もあり得るとするが、安全が保障されるなどということはこの場合はあり得ないだろう。物理学者寺田寅彦の格言を持ち出すまでもなく、「災難は忘れた頃にやってくる」。地震群発地帯のわが国であることを、すでにお忘れか。
 
▼こうした脱原発の公約をぶれさせているのが、解散後に動き出した電力会社の値上げラッシュ。各電力会社は家庭向けで平均8・51～11・88％の値上げを政府に申請した。ほかにも1社が値上げを表明するなど、これこそ談合そのものの申し合わせたような動きだ。火力発電への切り換えに伴う燃料コストの増大が要因だろうが、2次、3次と値上げが家計を直撃する恐れもある。
 
▼ところが値上げラッシュは、政権をうかがう党にとってはとりわけ大きなマイナス要因。電力会社を筆頭とする経済界からの突き上げに、「再稼働の条件」を付しているわけだ。何はともあれ、国民の生活、安心安全という考えがまず欠落している。日本の命運を左右する「一票」を、この怒りとともにどう行使するか。思案のしどころだ。【天下無双】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・12・3）