木枯しが吹く冷たい時雨の日、震災のつめ跡がまざまざと残る福島県浜通りの沿岸部を訪れた。その一帯はさながら「復興」と言うよりは、手つかずのがれき類を後片づけしようという段階だ。なかでも東京電力の福島原発事故で廃虚と化している双葉郡内は、中間貯蔵施設建設の予備調査が始まる兆しを見せているが、除染には手が届かず、5年後に故郷に戻れる保証はとてもない。
 
▼故郷への帰還はどうしてもお年寄りが中心だが、食料品店や医療機関、上下水道、電気ガスなど最低限の生活基盤が回復しない限り、日常生活は望めそうもない。あえて言えば、5年、10年先でも帰還は絶望に近い。故郷への思いは齢とともに日々募るが、悲しいかな果たせぬ望郷の念である。
 
▼そんな思いをよそに、公示まで3日となった衆院選。「脱原発」ひとつとっても風見鶏のようにぶれ続ける公約だが、そこには原発被災者の救済や政府としての復興の前倒しなど微塵も感じられない。財政再建を優先する財務省などは、とにかく予算をつぎ込みたくないらしい。「復興特会」の特別予算枠を設け、まずは5年後を目標にした旧来の警戒区域外の完全復興を成し遂げるべきだ。原発事故は東電の責任だけではない。国策で進めてきた国の責任はないのか。東京都のけじめは。
 
▼先人たちが営々と築いてきた地が一瞬にして住めなくなる。ダム建設による水没や、それこそ山が崩れ落ちるような大災害でも、故郷やその近くにはいつかは戻れる。しかし、「棄民」と言われる人たちは、新天地を開拓し、そこで生きてゆくしかないと思う。そんな矢先、東電が福島復興本社を双葉郡の楢葉町と広野町にまたがるサッカーのナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」に置くことを決めた。「原発事故によって双葉郡内の方々に避難を強いた。きちんと向き合いたい」と説明したという。ここは素直に受け入れたいと思うが、どうか。
 
▼それにしても県内首長たちの復興本社の誘致合戦にはあきれた。東電本店詣でもあった。これでは以前の「ズブズブ」の関係ではないか。どんな時でも経済活性化を言えば済むとでも考えているのだろうか。長に立つもののプライドを持っていただきたい。国民が見ていますよ。【天下泰平】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・12・1）