次の土曜日には師走を迎え、街は一気にクリスマス、歳末商戦で活気を帯びそうだ。福島県内の街々は、震災や原発事故などの影響で沈滞しているかと思いきや、そうではない。茨城県と接する本県の東南端、いわき市は復興特需さながらのミニバブルの様相。こうした景気はすでに震災から1～2カ月後に始まっていた。県央の商都・郡山市も負けてはいない。震災以降の復興イベントは目白押しで、夜の盛り場も活況を呈する

▼「いやいや、それは表面上。いつまで続くか…」。一方でこんな声も漏れ聞く。特需と言うだけあって、市民は期間限定であることをよく承知している。そんな市民も、うわべは気丈に立ち回るが、不安と複雑な思いは常に交錯する。それが偽らざる心境だろう。「震災の悲しみは、いつかは乗り越えられる。だが、今の福島の状況には希望が持てない」。県民のひとり一人が頑張ってゆこうにも、余りにも先が見えない。この師走は総選挙という喧騒がもう一つ加わるが、果たしてこの選挙に期待してよいものかどうか

▼ところで、マスコミやネットのサイトでは、低減する放射線量の数値を報じるが、例えば福島市は依然として0.8マイクロシーベルト（定点観測地）と、事故前の0.04マイクロシーベルトをはるかに上回っている。南会津町の0.06マイクロシーベルト（同）を除けば、県内の線量は依然として高い。肝心な情報開示も後手に回り、いまだに多くの県民が疑念を抱く。約16万人の県民が県内外に避難するのは当然のことだ

▼ましてや、一時避難した人たちを「逃げた」「卑怯者」と呼ばわりする心無い人たちもいる。まずは自らの「心の復興」から始めよ、と願う。「子を連れて西へ西へと逃げていく愚かな母と言うならば言え」（歌人・俵万智）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【天下泰平】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・11・24）