東京電力福島第一原子力発電所に近く、同第二原子力発電所が立地する富岡町は、町内全域が警戒区域(半径20㌔㍍)にあたる。全町民約1万5000人の多くは県央の郡山市、浜沿いのいわき市に避難しており、一刻も早い除染活動の本格着手と財物一律賠償が求められている。現在、町役場の中枢機能を郡山庁舎(事務所)に構え、いわき、三春、大玉の3市町村には各出張所を置く。仮設住宅は郡山、いわき、三春、大玉の4市町村に計12カ所。避難町民の多くは、故郷に近く、文化・経済圏でもあるいわき市に最も多い約5300人が居住する。町は今後、帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の3区域に再編される公算が大きく、国との協議が本格化する。遠藤勝也町長に帰還宣言の時期、仮の町への対応や復興計画を踏まえたこれからの方向性を聞いた。
<帰還宣言の時期とその理由> 2017(平成29)年3月11日まで帰還宣言しない方針を決めたが、一律賠償とインフラ復旧・除染問題が前提となるのか。6年をスパンにインフラ復旧と除染の見通しをどう見極め、判断していくのか。
「帰還宣言は議会の全員協議会において全会一致で議決した。発災後6年、今から5年後弱を目標している。その一つの理由は、区域の再編が今のままだと不可能になる。夜の森地区など人口密集地域の中に居住制限区域と帰還困難区域があるが、実際は建物の被災状況は同じで、まったく住めない状況にある。賠償に格差があるということは、線引きもできないということになる。従って、町内一円が平等一律を主張している。とりあえず、帰還困難区域の発災後6年という期間にあわせて、この間、インフラやライフラインの復旧、除染においても健康管理の年間被ばく線量1㍉シーベルトを目標にしている。このため、2~3年の期間では不可能で、5年以上は要する。帰還までのこれらのことは、町民には理解されていると思う」
<「仮の町」への対応> 受け入れ自治体によってとらえ方が違うが、これらを踏まえた上でいつごろの時期に候補地を絞り、具体的な対応を決めるのか。いわき市という流れになっていくのか。
「災害公営住宅の整備候補地は、町内などの低線量地のほか、郡山、いわき市を考えており、まずは建設用地のあてがある郡山市にモデル事業として、県営の災害公営住宅の建設を要望している。現在、町では町民意向調査を実施し、その結果を待ってどこにどのくらいの災害公営住宅を建設するかを判断していきたい。昨年の意向調査や、現在の避難者数を考慮すると、町民はいわき、郡山市に相当数の要望があると予想している。
近々、賠償問題が決まることが予想され、国でも秋までには意向調査を実施するとのことで、さらに要望が明確になると考えられる。いわき市はニーズが高いが、どうしても居住地が狭い。そこで、災害公営住宅を建設する際の最大の問題は建設用地であり、県や国が前面に立って用地確保をお願いしたい。いわき市に比べると、郡山市に避難する人口は少ないが、三春町や大玉村での人口を加えると4500~4600人になる」
<復興計画素案> 富岡、いわき、郡山と3拠点を設けた場合、事実上の分断にならないか。公共的施設の設置が負荷にならないか。町民のパブリックコメントをどの程度吸い上げて実行できるか。
「町は町内を復旧、復興することがこれからの最大の課題であると考えている。従って、町外に独立した町をつくる考えは持っていない。現在、避難者はいわき、郡山市に多く住んでおり、多くの避難者が今住んでいるところに生活拠点を整備するのが、ベターであると考えている。情報を共有し、コミュニティーをとりながら、できるだけ3カ所に集約して生活できるようにしたい。パブリックコメントは775件寄せられた。内容はそれぞれであり、早く帰還したい人、帰還できないと考えている人、実行は困難であると考えている人、それぞれだが、町としてはこれから復旧、復興に向けて鋭意努力していく。パブリックコメントの結果は、復興計画策定委員会で検討、取り入れており、町民にとって希望が持てる復興計画を策定したいと考えている」
<民間ボランティアとの協力関係> インターネットで情報発信しているボランティア団体との連携をどのように考えるか。「富岡インサイド」などの充実した媒体も活躍している。
「全国に避難する町民の皆さんに町の情報を届けることも大事な業務のひとつだが、民間ボランティアの皆さんとの連携で、きめ細かい対応を目指している。例えば、同町の平山勉さんは、震災後の富岡に関するさまざまな情報を集めた富岡町応援情報サイト「富岡インサイド」を立ち上げたが、町のホームページにもリンクして広く町民の方に見ていただけるようしている。また、全国に避難する町民の皆さんにタブレット型の情報端末を配布。これに友好都市の埼玉県杉戸町のNPO法人・杉戸SOHO(ソーホー)クラブのシニア情報アドバイザーの皆さんが、埼玉県内に避難する高齢者向けにタブレットの操作講習を手伝っていただいている。
町民の生活支援を担っている『おだがいさまセンター』では、町民の皆さんに向けた災害FM放送を行っているが、タブレット端末を使って全国の皆さんにも聴いていただくための仕組みづくりに協力を願っている。ほかにも、いろいろな団体から、いずれも行政の視点とは違った角度でのアドバイスや協力をいただき、きめ細かな支援に役立っている。これからも民間ボランティアの皆さんとの連携や協力体制を築いていきたいと考える」(2014・7・20 死去)
≪メモ≫
福島県双葉郡富岡町は人口14870(2011年8月現在)、面積68.47平方㌔㍍。町内を走る常磐線(現在は不通)には、富岡駅(津波で流出)と夜の森駅の2つの駅があり、夜の森公園は桜の名所として全国でも有名。しかし、東電福島第一原発事故などにより、すべての町民が県内外に散らばり避難。無人の町は荒廃が続く。現在、福島第一原発から20km圏内の警戒区域指定により、一般には全域入ることが出来ない。町内に入るには、原発、復旧事業関係者以外では一般家庭の一時帰宅申請、事業者の一時立ち入りに限られ、サーベイメーターや線量計携帯が義務づけられるなど申請にも面倒な手続きを要する。
(2012・8・20)